「・・・・・・・」
岡崎先生・・・伊織さんの真剣さが伝わる声で丁寧に紡がれた、嘘のない昨日あたしたちの間にあった事実
それは、お互いに欲しいという本能を満たす行為だけではない
彼の、あたしを大切に想う心がそこにはあったという事実
彼と同じく、あたしを大切に想う心を持つお父さんがその事実を否定するはずはない
「いつか、真緒をかっさらう男が出てくる。そんな覚悟はしていたつもりだが、真緒に対する俺以上の想いを持っている男なんてそうそういない。だから真緒は誰にもやらない・・・」
岡崎先生の言葉を黙って聞いていたお父さんが口を開く。
喧嘩腰口調ではなく、自分に言い聞かせているかのような口調で。
岡崎先生はそれすらも見逃さないぞという気概が伝わってくるぐらいお父さんを凝視している。
「そう思っていたのに、こんなにも堂々と俺に面と向かって、真緒への想いをぶつけてくるなんて・・・」
『・・・お父さん・・・』
「真緒・・・お前、聴いてたな・・・さっきの、あいつの言葉も・・・」
耳を塞いでいるはずのあたしがふたりの会話をしっかりと耳にしていたこと・・・お父さんには悪いって思ってる
でも、岡崎先生から紡がれた昨日の夜あった事実を聞かされているお父さんの寂しそうな顔を見ていたら、あたしの想いも伝えたくなった。
いつもあたしやお母さんの前では
穏やかに幸せそうにニコニコ笑っているお父さんに
寂しい顔をさせたままでいてほしくなかったから
だからあたしは
『聞いてた・・・朝帰りの後ろめたさなんてもうどっか行ってしまったぐらい、昨日の夜のあたし達は正しいことをしたって思ってる。』
今、自分が伝えられることを正直にまっすぐに伝えた。



