「で、嘘、つかないんだよな?岡崎くんは」
お父さんはあたしが耳を塞いでいるのを横目でちらっと見て確認してから、岡崎先生に再度同じ問いかけをする。
問いかけているけど、半分は脅しているようにも感じられる。
岡崎先生から耳を塞げとは言われているけれど、見るなとは言われていないあたしは、お父さんに詰め寄られている彼の様子を見る。
彼はあたしとは違って目が泳ぐ気配はない。
それどころか、鋭い視線を投げかけるお父さんから一切目を逸らさない彼。
彼が患者さんと集中してハンドセラピィをしている時のような、第三者の誰も寄せ付けないような神々しい空気が今、目の前でも漂っている。
そういう時の彼は無敵。
「昨日の夜は・・・真緒を・・・娘さんを抱きしめました。」
「・・・・・・・」
「まっさらな彼女をできるだけ汚《けが》さないように、大切に抱きしめました。」
「・・・・・・・」
「大切に抱くという行為の、重みと尊さと幸福感を、この歳になって初めて知りました。」
「・・・・・・・」
「でも、彼女が昨日の夜、自分と同じものを得られたのかは、正直わかりません。だから、これから、時間をかけてゆっくりとふたりで同じものを知っていきたい。そう思っています。」



