「現在、午前6時36分18秒・・・夜、真緒と一緒にいることは見逃してやったが、朝帰りしてもいいとは言ってないぞ。」
チャイムを押したのと同時に、鬼の形相でスーツの上に大きな赤いハート模様のついたエプロンを着けて、目覚まし時計を片手に持って玄関ドアを開けたのは、お父さん。
そのエプロンはお父さんが会社の忘年会の余興での罰ゲームでコスプレさせられたものらしく、お父さんも恥ずかしかったと持ち帰ってきた
けれども、そのエプロンのデザインがあまりにもラブリーすぎたのを面白がったあたしがお父さんにそれを着させて、似合う!素敵!と連呼したところ、彼は毎朝朝食作りの手伝いの際に着用するようになった
しかも、今日のそのエプロンの大きな赤いハート模様には、昨日まではなかった “MAO LOVE” という白いアルファベット文字のアップリケが付いている
絶対に、お父さんが昨日の夜、付けたんだ
彼氏が来たら、言葉だけじゃなく全身で圧力をかけるために・・・
「真緒・・・お父さん、パワーありすぎだろ・・聞いてなかったぞ、この情報は・・」
あたしの隣でお父さんの姿をとらえた彼があたしの耳元でそう囁く。
そんな姿をお父さんは見逃すはずはなく・・・
「おい、笑ったな。そこのデカイの!」
「わ、笑っていませ・・・います。すみません。」
「なんだよ、正直じゃないか。」
「僕は嘘つけないんで。」
目覚まし時計を腰に当てて相手を威嚇するようなポージングをしているお父さんと初対面じゃないせいか、くすっと笑う余裕すら感じられる態度の岡崎先生。
お互い、何か探り合ってる
お父さんのことだから、昨日、岡崎先生にKOされてから、一晩、今のこの時のリベンジを考えていたんだと思う
その証拠があの、松浦先生からのLINE写真
多分、お父さんが謝恩会会場で捕まえた松浦先生に写真提供をけしかけたんだと思う
なんか嫌な予感がする
「じゃあ、昨日の夜は何していた。」
「・・・・・・・」
うわ・・
お父さん、早速、直球勝負・・・
「嘘つかないんだよな?」
うわ~
岡崎先生の言葉を逆手に取ってるし
でも、嘘つかない イコール・・・
あたしが岡崎先生だったら目が泳いで、逃げちゃいそう
でも、多分、岡崎先生は逃げない
向き合った相手には誠実に応対する彼の姿を
あたしはずっとこの目で見てきたから
「真緒、手で耳、塞いどけ。」
『えっ、でも・・』
「節操のない男と思っているヤツから聴かされる事実を自分だけじゃなく、娘にまでも聴かされるのは、父親として複雑な心境になるだろうからな。」
やっぱりそう
岡崎先生はあたしだけでなく、向き合う相手の立場も考えられる人
だから
『わかりました。』
あたしは耳を塞ぐ真似をして、彼らの対峙している様子を見守ることにした。



