そんな中、聞こえてきた、切なさを孕んだ彼の声
「もう捜さない・・真緒のこと・・・」
『・・・・・さがさ・・な・・い?』
「もう離さないから、捜さない・・・真緒のこと。」
2年前、あたしのことを見つけ出してくれて
1年前、あたしが自分で感じて考えて選ぶ時間を与えるために敢えて、あたしのことを突き放した
彼と想いが通じ合った今ならわかる
それが彼・・岡崎先生の、これまでのあたしを大切にする愛し方なんだって
彼らしい繊細なのにどこか不器用な愛し方なんだって
でも、恋愛でも雲の上の存在だった彼に手が届きかけている今、これからは
あたしが彼を大切に真っすぐに愛したい
彼みたいに、突き放して愛すという計算なんて、恋愛初心者のあたしにはまだまだできないから
『お願い・・もう離れないように・・して・・欲しい・・・』
だからあたしはさっき自分が決めたように
あたしがまっすぐに彼を求めた。
「真緒が・・・欲しい・・・もっと近くで。」
彼を欲しがるあたしの想いが伝わった今
彼のそんな甘い問いかけにyes以外の選択肢はなくて、あたしは彼の目をしっかりと見て頷いた。
「・・・真緒・・」
唇に優しいキスをひとつ落とされ、今まで耳にした中で一番、甘く切なく聞こえる彼の、あたしの名を呼ぶ声に胸が疼く中、今まで触れたことがなかった彼の熱を直に感じ始める。
生まれて始めてもたらされるの自分のものではない熱の感覚によってありえないぐらい胸が締め付けられそうになる。
『・・・・お・・か・ざ・・・き・・せん・・せ・・・・』
あたしの様子をやや心配そうに見ながら、あたしの中で彼の動きがゆっくりと加速し始めるに従って増してしまう息苦しさ
それだけじゃなく、これもまた生まれて初めて感じるどうにもならない痛みから来る抑えられない胸の鼓動が激しくなる一方のあたし
「伊織・・・そう呼んで・・真緒・・・」
耳元でそう甘く囁いた彼の声とより近くに感じた彼のグリーンウッドの香りで、ひとりじゃないんだと改めて感じてからは、どうにもならない痛みが徐々に、甘くて胸がきゅんとくる痛みに変わる
『伊織・・・さん・・』
「・・・あったかい・・真緒は・・・」
あたしのそんな異変を感じ取った彼が絶妙なタイミングで漏らしたその言葉によって、あたしはその痛みを喜びとして受け止めた
大切な人に大切に抱かれる喜びなんだ・・と
『・・・い・・おり・・さん。』
「だから、もう戸惑わなくてもいい・・大丈夫だから・・・ただ俺だけを求めろ・・・」
『いおり・・さん・・・い・お・・り・・・さん・・・ダイ・・スキ・・・』
そう言いながら、あたしと岡崎先生との体がひとつに溶け合った。
想像以上に
温かく、優しく、深く、甘く・・・
あまりにも彼の体温が温かすぎて、もう一度溢れそうになった涙。
彼は、今度はそれを彼の優しいキスで受け止めてくれた。



