【Next step study 0:リハビリスタディー ~鬼指導教官じゃなくなった人に・・・】




実習合格をもらえたんだ
やっと終わった、良かった
そう思ってもいい

寮までの帰り道から寮の片付け最中も何度もその言葉を自分の頭の中で反芻した。
でも、いつまでたってもしっくりこなくて
充実感を得られないままで


「真緒、お疲れ様。」

『絵里奈~・・・』

「終わったね。」

『終わっちゃった・・・』


実習が終わってから、寮の片づけと荷物を宅急便へ出したりして慌ただしく過ごし、ようやくゆっくり息をつけたのは、高山へ帰る特急電車の中。

薄暗くなり始めた名古屋のビル街を抜けたと思っていたら、いつの間にか岐阜駅で電車の進行方向が反対になっている。
その景色の変化は時間にして約20分。
その間も涙で腫れた目で実習を終えたあたしに、そんな目になってしまった理由を聞かないでくれていた絵里奈。

でも、故郷にも繋がっている飛騨川。
電車がその流れに並行して走り始めた頃。
あたしの腫れぼったい目はスルーしてくれていた彼女が、あたしの右手薬指に嵌められたままのスワンネック指変形矯正用デザインのスプリントはスルーしてくれなくなった。


「真緒、リウマチ?スワンネックのスプリントじゃん、それ。」

『ううん、違う。岡崎先生からもらったの。』


スワンネック指変形矯正用スプリントは主に関節リウマチを罹患された患者さんが装着されている装具
スワンネック変形とは関節リウマチの影響で指のPIP関節(第2関節)が過度に反ってしまう変形
その見た目が白鳥の首のように見えるからそのような名前が付けられたらしい
そのスプリントをオーダーメイドで作成し、装着することで変形の進行を防ぎ、痛みの増悪を予防するのだ


「作ってもらったんだ・・・岡崎先生に・・・いつ?」

『わからない・・・スプリント作りを教えてやるって言われたけど・・・あたし、その時、動悸みたいな胸の苦しさでダウンしちゃって。』

「でも、それ、真緒の指にピッタリじゃん。真緒はリウマチじゃないから、矯正角度はほぼないように作ってあるし。」

『でも、スプリントを作ってもらった覚え、ないから・・・』


スプリントを作ってもらった記憶を一所懸命に想い出すけど、想い出せないあたしの隣で、絵里奈があたしの指からスプリントをすっと外して奪い取る。