でも、所詮、あたしは彼にとってただの実習生
ついさっき彼が長谷川さんに言ったフライング口止めを自分も食らうことだって想定内

だからあたしは、日詠先生に助言された通り、自分の想いに蓋をしないで、正直に伝えるんだ
自分の、岡崎先生がスキという大切な気持ち
今、伝えないと、もうそのチャンスは絶対来ないから
あたしはあたしの大切なその気持ちを大切にしたい


『最後まで言わせて下さい!あたしは岡崎先生のことが』

「真緒、家に帰るまでが実習だ。今はまだ実習中で、指導中だ。」


岡崎先生はそうやって指導者の権限を丸出しをしているくせに、腕に抱えているあたしの体をもっと強く抱きしめた。

好きって言わせてくれないのに、好きがもっと増えちゃうようなことしてくれるなんて、恋愛初心者のあたしにはもうどうすることもできない。


「真緒、1度しか言わない。よく聞け。」


彼が耳元で囁くその言葉に素直に耳を傾ける。
今のあたしにはそれしかできない。


「真緒はまだこれから、数えきれないくらいの人達、様々な価値観や背景を持つ人達に嫌という程、出逢うだろう。」

『・・はい。』

「その人達と一緒に過ごして、笑って、泣いて、喜んで、怒って・・・美味しいもの、美味しくないもの、キレイなもの、キレイじゃないもの、良いもの、悪いものをちゃんと見て、聞いて、感じて・・・そういう時間をたくさん過ごして・・・」

『・・・・はい。』

「そういう時間をちゃんと経てから、たったひとりの、お前が大切に思える人に、お前のその大切な “好き” を伝えるんだ。」

『・・・・・・・・・』


あたしにとって今がその時って思ってる
だから、3つ目の “はい” がどうしても言えない



「だから、今、ここでお前が大切にしてきたはずの “好き” を使うなよ・・・」



『・・・・・・・』

やっぱり、言えない “はい”


「真緒、“はい”・・は?」


『・・・・・・・』

言わせないで・・・その “はい” をあたしに


「真緒。」

『・・・・・・・』


呼ばないで・・・その、あたしに自分の言うこと聞けって催促するような “真緒” というあたしの名を


「・・・真緒。」

口にしないで・・・その、好きと伝えるチャンスは与えてやらない・・を暗示しているような “真緒” を


「・・・・真・・・緒。」

聞かせないで・・・その、あたしがどうしても切なくなるような “真緒” を