【Last study:世界でたったひとつの合格ハンコ】


「真緒さん、岡崎先生と昨日はお泊りにならなかったんですか?」


一昨日、レポート、レジュメとも完成し、発表練習もバッチリ行えたおかげで、昨日は早く眠れたらしい絵里奈。
彼女が朝食後の歯磨き中のあたしに肘をくいくい押し付けながら問いかけてきた。


『昨日はしていません!』

「じゃあ、おとついは?」

『・・・お泊りじゃないけど、体調不良で付き添ってもらっていました。』

「うわ~、何回聞いても芸能人の不倫釈明会見みたい!!!!」


昨日の昼休み、昨晩と
あたしは絵里奈とこの同じやり取りを何回もやらされている。
もう何回も、となると、さすがにあたしの返答もテンプレ化。
真面目に答えたら、寝不足が解消されている絵里奈に深堀りされること間違いないから。

あたしは一昨日の夜、リハビリ診察室で朝までうっかり眠ってしまったせいで、症例発表練習ができず、昨日は夜遅くまでその練習をして寝不足。


「でも今日で最後だね、実習。」

『・・・そうだね。』

「あたし達、頑張ったよね、真緒。」

『うん、頑張った。』

「あとは症例発表だね。」

『そうだ。頑張ろっ!』


生まれ育った飛騨高山を、3週間というこんなにも長く離れたのは初めて。
でも、それももうあと半日で終わり、今日の夕方の特急電車であたし達は高山に戻る。

この寮で実習生活し始めた時の、なんだか居心地が悪そうに見えた新品だった歯ブラシも、すっかり洗面台の片隅にどっしりと定位置化。
今日、病院から戻ってきた時にできるだけ、荷物の梱包の手間や時間を省こうと、居室の床に置いてある段ボールに今、使い終わったばかりの歯ブラシをそっと入れ、実習最後の病院へ向かった。