非常勤講師と受験生

一応、周りに気付かれない程度にノックをしてから部屋に入ると、小林先生が待てをしている子犬の様に出迎えてくれた。

「ほんとに来てくれたんだ。」

「ええ、約束、してましたからね。」

「ねぇ、葵。こっち来て?」そう言って、小林先生は大きな二人掛け用のソファに腰を下ろし、横に座ってほしそうにうるうるの眼差しで此方を見てきた。

私は言われた通りに小林先生の隣に座った。

「ねぇ、葵。」

「どうしたんですか?」

先生は私の手を握った。

「今から襲ってもいい?」

「……っ、おそっ…襲うって、ダメですよ!!!」

これでも小声の中で怒っていた。

「だって、女がこんな時間にのこのこ男の部屋に来てんだよ?」

「それはそうですけど……。」

「そんなの、『襲っても良いですよ』って言ってるのと同然じゃん。」

「いやいやいや……、誘ったのはそっちじゃないですか?!」

「誘ったのは事実だけど、別に来なくても良かったんじゃない?」

「……っ、そっ、それって、私に会いたくなかったんですか?」

「いや、そーゆー訳じゃないけど……。」

「じゃあ、もう少しだけ居させて下さい。」

「じゃあ、ギューしてても良い?」

「もうしてる癖に言わないで下さいッ……。」