「胡桃」


「・・・幻」


桐悟さんのことが好きすぎて
遂に幻が見えるようになったのだろうか


暑い夏なのにスーツを着こなす桐悟さんは

優しい目をしている


「胡桃」


「・・・っ」


「探した」


聞きたくて堪らなかった低くて甘い声は破壊力抜群で


込み上げる感情が涙腺を壊した


「その写真は、俺にか?」


「・・・はい」


「胡桃」


「・・・はい」


「胡桃のくれた写真を何枚も拡大して
やっと見つけたんだ」


「・・・っ」


何気ない風景にヒントがあったということだろうか


それがこんなにも嬉しい


「お仕事はどうしたんですか?」


「ちゃんと休みを貰ってきた」


「青鬼、でしたよね」


「あぁ」


「青鬼の側近は女嫌いなのに?」


「クッ、あぁ。隣座っても良いか」


「はい」


私がどうにかよじ登る堤防を
桐悟さんは軽々と飛び乗って隣に腰を下ろした


「綺麗な海だな」


「はい」


「ここで育ったんだな、胡桃は」


「泳げないんですけどね」


「クッ、そうか」


「桐悟さんは泳げますか?」


「さぁ、どうだろうな」


「フフ」


「携帯、解約したのか」


「・・・はい」


「胡桃、俺な」


「はい」


「諦めねぇから」


「・・・」


「朝も昼も夜も、胡桃が恋しい」


桐悟さん・・・私もです

それを口にするには勇気が足りなくて

桐悟さんのくれる言葉を一言一句忘れないように耳を傾ける


「キレ者と噂の青鬼の側近は
家では腑抜けになってしまった」


「・・・」


「胡桃の声が聞けねぇだけで頑張れないし
胡桃が居ないと思うだけで、息も出来ねぇ」


海を見ながら呟く桐悟さんの本音は
格好悪いのに格好良い


私だけに見せてくれる弱音は
頑なな気持ちを解すようだった