お母さんと話してから
憑き物が落ちたみたいに顔を上げた私に


パンを買いに来てくれる常連さんからは


「やっと笑った顔を見たよ」


心配していたことを聞かされた


「この子ったら悩みを抱えちゃうのが趣味みたいでね〜」


レジを打ちながら茶化してくるお母さんには

何も返せなくて

メロンパンにクッキー生地を付けながら

頑張って聞き流すことにした


「良いのか?言われっぱなしで」


「・・・いいの」


「そうか」


それでも・・・苦しくても泣かずに済んでいるのはお母さんのお陰


「メロンパンを作る時だけ頬が緩んでるぞ」


更にはお父さんにまで茶化されて
やっぱり此処は居心地が良いと嬉しくなった


そして・・・


本当は桐悟さんにもメロンパンを食べて貰いたかったなぁ


なんて


結局のところ桐悟さんへの想いは毎日毎日募っている

寝ても覚めても桐悟さんを思い出しては
頭の中で話しかけていた


比較的過ごしやすい今年の夏も
海水浴客は例年通り多い

その流れなのか
パンの売れ行きが好調で並べたパンがお昼までもたないという現象まで生み出した

それじゃあ申し訳ないと
お父さんはいつもより数を作るようになった

そのお陰で

私の腕も上達を見せてきた


ひたすら成形した生地が焼き上がるお昼に

家に戻って三人分の昼食を作れば私の仕事はお役御免になる


そこから長い一日が始まるんだけど


今日からは医療事務のテキストを開くことにした


心境の変化というか・・・

自分では踏み出せない一歩を
また両親に背中を押してもらったから


頑なだった気持ちに変化は訪れたのに


お兄ちゃんとは依然話せていない


牛若丸のことも、食事のことも気になるのに

両親にも聞いていない


「案外頑固?」


自分のことを笑う余裕も出たけれど


初めてお兄ちゃんと言い合いをした日が頭から離れなくて


何をどうすれば良いのかすら分からずにいた