「もしもし」

(胡桃、どこだ)

「あ、えっと、出かけて、る」

(だから何処だ)

二度目の問いかけは語尾がキツくて焦る

「お店の名前は知らないんだけど
お兄ちゃんの同級生の成瀬さん?のお店みたい」

(は?)

「えっと、洋食屋さん?」

(誰と一緒に行った)

「・・・桐悟さん、と」

(チッ)

「お兄ちゃん?」

(代われ、桐悟に)

「うん」


席を立って大石さんと星野さんの席に移っている桐悟さんの元へと近付いた


「どうした、胡桃」


「あの、お兄ちゃんが代わってと」


「あぁ」


私の携帯電話を受け取って耳に当てた桐悟さんは
瞬時に眉間に皺を寄せた


・・・私の所為だ


出掛けることをお兄ちゃんに伝え忘れている


日中の僅かな時間だし

相手はお兄ちゃんも知っている桐悟さんだからと安易に考えていた


「食事が終われば送る」


「あぁ」


「もちろんだ」


お兄ちゃんの声は聞こえないけれど
この返しならなんとなく想像ができる


通話を終わらせた桐悟さんは


「他に聞きたいことがあれば聞いてくれ」


そう言って携帯電話を返してくれた


気不味い雰囲気は既に消えていて


「じゃあ」とまた元の席に戻った


「桐悟さんは」


唐突に始めた私の話に


「あぁ」と優しく返事をしてくれる


桐悟さんと一緒に居るのは居心地が良い

だからこそ、聞きたい


「どうして、私なんですか?」


「どうして、か」


「電話もメッセージも、手を繋ぐのも
どうして、私なんですか」


次々と言葉を紡いでしまうのは
胸が苦しくて堪らないからなのに


私の願う答えと差異があれば
きっと今より苦しい



でも、合っていても、苦しい


不安定な気持ちは涙を連れてきた