コーヒーショップのドライブスルーに寄り道をして


行き先は内緒のまま車は走り続ける


二人きりの空間が楽しくて
分かりやすく私の声も弾む


そんな私に桐悟さんは信号で止まる度
視線を合わせては微笑んでくれる

ハンドルを握っているだけなのに
雑誌の中のモデルさんみたいで

何度も何度も目蓋でシャッターを切る


そんなちょっと危ない私に気づかないで欲しいと願いながら


お喋りに耳を傾けた


お昼ご飯を食べたかどうか心配した私に

お昼は陽治さんが焼きそばパーティーをしたと話してくれたあと


「陽治はなんでもかんでもパーティーにしたがる」


そう言って笑った


「・・・フフ」


確かに“これはパーティーだな”って
何度か聞いたことがある


「飲み会には居ると盛り上がるタイプ」


桐悟さんの例えも面白くて
流れる景色なんて桐悟さんの向こう側に見えるものだけになっていく


そして・・・


「・・・嘘」


静かに車が止まったところでフロントガラスの向こう側に意識が吸い取られた



・・・・・・綺麗



この街に来て初めての海


四国とは違って砂浜も堤防もなくて
綺麗に整備された遊歩道に公園
チラホラと見える釣り人


真逆の海なのに


その美しさに引き込まれた


「外に出てみるか?」


「うん」


バッグの中から折り畳みの日傘を取り出した


「胡桃は色が白いから日焼けすると大変そうだな」


桐悟さんは助手席まで回ってきてドアを開けて


私の頭を撫でたあとその日傘を取った


「ほら、胡桃」


サッと肩を抱かれて
二人の距離がゼロになる


「日焼けするぞ?」


それは暗に“離れるな”を意味するもので

揶揄うような柔らかな声に
またひとつ胸がトクンと鳴る


ただ、肩を抱かれて海を見ているだけなのに


大好きな海が霞むほど
桐悟さんが気になる


トクトクと跳ねる鼓動を
ゆっくり深呼吸で落ち着かせながら


桐悟さんの声に耳を傾けた