「おとーさーん」


絶妙なタイミングで部屋に飛び込んできた藍斗君は

そのまま真っ直ぐ青鬼に抱きついた


「ママね、メロンパンおいしいって」


「そうか」


「ぼくとね?はんぶんこしたの」


「良かったな」


「くるみちゃん、ありがとう」


「いいえ、どういたしまして」


遅れて入ってきた桐悟さんは
私の隣に腰掛けると


「ほら、忘れ物」


カブトムシのパンを藍斗君に渡した


「きょうはカブトムシといっしょにねるの」


両手で持ったパンを青鬼に見せながら
得意顔で話す藍斗君


「えっと」


一緒に寝たら布団が大変なことになる
それを伝えるつもりで声を出した私に


「ん?」


反応したのは青鬼だった


「あ、えっと、あの・・・」


「ん?」


なんだろう、ラスボス・・・いや
大ボスだと解釈していた青鬼の
甘い返事が意外で固まる


また、話せなくなった私と
視線を合わせたままの青鬼は


「どうかしたか?」


さらに優しく声をかけてくれた


「あの。カブトムシは」


「・・・パンか?」


「はい」


「それが?」


「一緒に寝るのは、無理かな」


「クッ」


・・・え


ここは笑うとこ?


ツッコミたい思いは綺麗に飲み込んで


「お布団がパンで大変なことに」


わざわざ説明しなくても
藍斗君に言い聞かせてくれるはずなのに


なんだか放っておけない私の説明が面白かったのか


青鬼はククと喉を鳴らして笑っている


・・・えっと


 
どんどん頬に熱が集まって
なんだか恥ずかしい


隣に座る桐悟さんに助けを求めるように見上げてみれば

それに気付いた桐悟さんは
私と一度視線を合わせてから


「頭、今日はこれで」


此処から抜け出す手助けをしてくれた


「え、くるみちゃんかえるの?」


「うん。また来るね?
次もいっぱいパンを焼いてくるから
楽しみに待っててくれる?」


「うん。らんとまってる」


ただを捏ねられるかと心配したけれど
聞き分けの良い藍斗君は


良いお返事をくれた