八月の最終週に始まった医療事務のカリキュラムは


同期になる二人と私の計三人


二人とも地元大学の四回生で
大杉樹貴君と皆川成美さん


三人横並びで受ける講習会は
テキストへの書き込みと復習で
仲良くなるのに時間はかからなかった


講習会のお昼休憩にはお兄ちゃんとお昼ご飯を食べるのが日課になっているんだけど


今日はサンドウィッチを作ってきたから
中庭で食べようと約束をしたのに


診療がとっくに終わっている時間に
お目当てのお兄ちゃんは現れていない


「・・・どうしたんだろ」


お兄ちゃんは医師だから
イレギュラーはある

だから特別心配もしていないけれど
大食いのお兄ちゃんが腹ペコということが可哀想になった


「とりあえず食べよう」


ランチバッグの中から
私の包みを取り出すと

紙コップにポットからコーヒーを注いだ


今日は薄焼き卵と胡瓜とレタスを挟んだものと
お兄ちゃんの好きな定番のツナマヨ


もちろん、デザートにメロンパンは二個入っている


「いただきます」


おしぼりで手を拭いて
ツナマヨサンドにかぶりついた瞬間


小さな男の子が目の前で止まった


「・・・?」


「・・・ぼくも」


「・・・ん?」


「・・・ぼくも、たべたい」


男の子の視線は私のかぶりついているサンドウィッチ


・・・えっと


キョロキョロと周りを見回すのに
男の子は一人のようで

・・・困った


私、個人としては
私の焼いたパンで作ったサンドウィッチだから

あげたいのは山々なんだけど
今はアレルギーの心配がある

だから男の子にその心配がないかどうか知る必要があるのだ


「一人で来たの?」


欲しいと言ったことへの返事が
思ってもみないことだったのか


男の子は悲しそうな顔になった


「迷子かな」


「・・・ちがうよ」


「ん?」


「まいごじゃないよ、らんとだよ?」


「らんと君?」名前ね


「うん!」


「じゃあ“らんと君”はここに誰と来たの?」


「ここ?」


「うん」


「ここは、とーごときたよ」


「とーご?」


・・・え?


もしかして桐悟さん?


驚いたと同時に
バタバタと足音が近付いた