ポロポロと涙を溢す私の手を引いて
お兄ちゃんはお寿司さんの暖簾を潜ると


案内もされていないのに個室に入った


掘り炬燵の落ち着いた雰囲気なのに
涙の所為で歪んで見える


「胡桃」


「・・・ん」


「話してみろよ」


「・・・ん」


「桐悟から、初日に顔を合わせただけで留守にしていたって
詫びの電話がかかっていたんだ」


「・・・」


「桐悟と会っていないのに
泣いてるのは、穂高でなにかあったってことだろ?」


「穂高組の、皆さんには仲良くして貰ったよ」


「じゃあ、なんでそんな顔になるんだ?」


「・・・上手く、説明出来ない」


「上手くなくても良い
順番もバラバラで良いから吐き出せ」


過保護すぎるお兄ちゃんが
今日は心地よくて


躊躇う気持ちを吐き出したくなった




Prrrrrrrr




口を開こうとしたタイミングで鳴り始めた着信音に


お兄ちゃんは小さく舌打ちをした


「出ない、の?」


取り出した携帯電話の画面をこちらに見せて


「桐悟からだ」


私の反応を見ながら探るような瞳がスッと細められた


「・・・っ」


「胡桃、携帯電話は?」


「・・・持って来てない」


その一言でお兄ちゃんは原因を桐悟さんと断定したらしい


「もしもし」


私に視線を向けたまま電話に出たお兄ちゃんは


「二泊三日世話になった
礼は後日改めてする」


淡々とそう言うと通話を終えた


「喧嘩、じゃないよな?」


「うん」


「でも、胡桃が泣くようなこと」


「・・・」


「浮気をするような男じゃないぞ?」


誘導尋問のようなお兄ちゃんの探りに
分かりやすく肩を揺らしてしまった


「・・・っ」


僅かに首を傾げたお兄ちゃんは
私より桐悟さんを知っている


もしかして・・・




遂に最悪な答えに行き着いた




ミナさんが本命?