「煌野…あのさ、今日は急いで帰る用事あるのか?」

「…なんで…?」

 無表情で静かな声。
 こうして聞いてみるとなかなかキレイな声だ。

 俺は入学して以来、煌野の声をこうして間近でしっかり聞いたことはなかった。

「あ、あのさ、どこでもいいんだけどさ、その、どっかでなんかしゃべんない?」

「…?」

 煌野は無表情のまま、ほんの少し首を傾げる。

「あ、その、煌野と何か話がしたいんだよ。ダメ…?」

「…私と…」

 煌野はつぶやき下を向いた。

「…やめておいたら?布施くん、私と話すとからかわれるよ…」

「俺はいいんだよ、したいんだからさ。煌野は嫌かな、って…」

 下を向いたままの煌野に対して、俺はしっかり煌野を見て言った。
 きっと真剣さが伝われば煌野は話を聞いてくれると思ったから。

「…私は…嫌じゃないよ…」

 煌野はチラッとだけ俺を見た。

「…布施くん…私をからかったりしないから…」

「そっか。でもよかった、煌野が嫌じゃなくてさ!どこで話す?人、あまりいないほうがいいだろ?」

 煌野は小さく頷いた。
 そして、

「…布施くん、優しいから…」

聞き逃しそうなほど小さな声。

「なんか言った?」

 俺が聞き返すと、煌野はまた何も言わずほんの少し首を傾げた。

「あ、じゃあさ…」