夜が明けない世界があった。

 暖かくない、草木はろくに生えない、岩や石も、物も冷えたまま。
 皆それを、おかしい事だとは思わなかった。

「こことは違う、暖かい場所もきっとある!この世界のどこかに!」

 そう思った一人の青年は、自ら船を作り、大海原に漕ぎ出した。
 彼は自らの目でその場所を見つけ、仲間に教えたかった。


 ある場所へ着くと、一人の少女が居たので暖かい場所は無いかと聞いた。

「旅人さん、こちらは暖かい場所ですよ」

 少女に連れられて行くと、少女の言う通り、温かい温泉が湧き出ている場所があった。
 しかし、

「これじゃない…僕の探している場所は、そこだけじゃなく、行かなくても皆暖まれる場所なんだ…」

 青年は少女に礼を言うと、また旅を続けた。


 またある所に辿り着き、人に同じように尋ねると、

「ありますよ、こちらです」

 そう言われ案内された場所には、街ごと暖められそうな大きなストーブが置かれていた。

「何か違う…こういう物じゃないんだ…。どこか無いのか…皆平等に暖かくなれるような場所は…」

 青年は様々な場所を旅したが、そのような場所は見つからなかった。


 ある日。
 青年の船は嵐に遭い、遭難する。

 船は何日も波に揉まれ、青年は打ち寄せた大波のあまりの衝撃に気を失った。


 ふと、周りがとても明るく、暖かいことに気付いた。

「…?」

 空は青く、薄く白い物が所々に浮いていて、空にある、眩しく光る巨大な何かが周りを照らす。
 その光は、世界に届くように彼には見えた。

「暖かい!これだ…僕の探していた場所…!!」

 周りには色とりどりの草木が植わり花が咲き、そこに居る人々は明るく笑っていた。

「しかし、ここはどこだろう…」

 しかし、そこにはもちろん知らない人ばかり。
 言葉も通じず、見た事もないものばかりだった。

「せっかくいい場所を見つけても、家族や仲間を、ここに連れてくることも出来ない…」

 気付いた青年は、言葉が分からないながらも何とかそこの人々に物を借りて船を直し、丈夫になった船で、今度は故郷に向かって船を漕ぎ出した。


 帰れるかは分からない。
 けれども、見知らぬ暖かい場所よりも、暗く、暖かくなくとも、家族や仲間のもとにいた方が幸せだと、青年は思った。