運命じゃない

高校へ入学して1ヶ月が経ち、俺を迎えたのは絶望。そう、課題テストの答案である。見事に0が並んでいる。
「おかしい!!俺はきちんと勉強したはずだ!!なんでこんな点数になるんだ!!」
俺は思わずそう叫んだ。
「それはこっちのセリフだ!馬鹿者!!」
すかさず神田(担任)の怒号が飛んできた。
「1年最初のテストから赤点、それも0点とは、恥ずかしくないのか!」
そんな事を俺に唾を飛ばす勢いで怒鳴ってくる神田。フッ、ありきたりな反応だ。0点なのは予想外だが、赤点なのは予想内だ。こういう時は対処法は事前に予習済み。
「恥ずかしくなどありません。一生懸命努力して出した結果です。これを恥じるということは、努力した過去の俺への侮辱となります。」
ここでキメ顔。完璧だ。
「こんの・・・・・大バカもんが!!その結果が何も出てないんだろうが!!せめて1点でも取ってからそういうことを言え!!」
それから俺は1時間もの間拘束され説教を聞かされた。何故だ、あそこは『確かに。お前、頑張ってたもんな。1番辛いのはお前のはずなのに、俺は怒ってばっかで・・・・悪かった。』となるところだろうに。解せぬ。
俺は釈然としない気持ちを抱えたまま補習室へと入った。確か、神田が言うには補習は俺を含めて2人だったはず。
「あ、君が水原奏多君?俺、武宮翔。今日はよろしく。」
そこにはごくごく普通の男子生徒がいた。短髪の黒髪に少し大きめの瞳。童顔気味だな。高校生にしては少し幼い顔を綻ばせながら武宮は俺にそう言った。
「あ、ああ。よろしく。」
今まで関わったことがないタイプの人間に俺は柄にもなく多少緊張してしまった。
「早速だけどさ、この追試のプリント、協力してやらない?俺、数学苦手でさ。」
眉毛を下げながら情けない表情で言う翔。
「いいぜ。」
それはその提案を受け入れ、2人でプリントを始めた。のだったが
「「二次関数って・・・・・・何?」」
最初の1問目で既に俺たちは詰んでいた。二次関数って習ったか?いや、習ってない。見ろ、武宮だって頷いてる。よし!
「武宮、数学は後回しだ。化学先やるぞ。」
「分かった!」
習ってないものを解けるはずがない。俺たちは化学を先にするべく、化学のプリントを広げた。
「・・・・・・・水原、化学反応式って習ってない・・・・・・よな?」
「・・・・・・ああ、習ってない。」
コレもだった。
「国語するぞ。」
「うん。」


「武宮、『だきょう』って」
「習ってないよ。」
「英語やんぞ。」


「「補語?目的語????」」


「なんだよ!!全部習ってねぇじゃん!!んなもん出来っか!!」
どうなってんだ!ここの教師は!!習ってねぇもん出して何がしてぇんだよ!!
「水原。」
俺が怒鳴り散らしていた教室に、武宮の静かな声が響いた。
「こういう時は、ただ怒るんじゃなくてちゃんと先生に抗議しに行くんだよ。」
武宮はそう言い微笑んだ。確かにそうだな、なに熱くなってんだ俺、ダセェ。
「さ、先生の所へ行こう。」
武宮はそれの手を引っ張り職員室まで連れていった。
「失礼します!!神田先生!!追試のプリントについて少しお話があります!!少々お時間を貰ってもよろしいでしょうか!!!」
大きくハキハキとした声で言う武宮。ここだけ見ると優等生で赤点を取るようにはまるで見えない。人は、見た目や行動だけでは判断できないってことだな。深いところまで見ないと。いや、俺もさっき会ったばっかだけど。
「なんだ、バカ2人組。」
職員室の奥から不名誉な呼び名を呼びながら出てきた神田。違う、俺は馬鹿なんじゃない。今回は不調子だっただけだ。
「今回の追試のプリントですがー」
お、武宮が切り出した。
「なんだ、何か不備でもあったのか?」
目を丸くしながら問う神田。ああそうだとも。不備だらけだ。俺たちじゃなかったら許してない。
「はい、このプリントを見てください。」
武宮は追試プリントを神田に手渡す。
「?」
神田は訳が分からないとでも言うふうに首を傾げる。気付かないとはどれだけ目が節穴なんだ。
「このプリントの内容、俺たち習ってません!!!」
よく言った!武宮!!
それを聞いた神田は俯いてプルプルと小刻みに震えている。
どうだ、神田、驚いたか?それとも自らの愚かさに恥ずかしくともなったか?
「安心しろ、神田。人である限り、間違いは犯すものだ。そう恥じることは無い。」


「こんのー大バカもん共が!!!」

雷が落ちた。それはもうどデカい雷が。
神田は顔を噴火するんじゃないかと思えるほどに真っ赤に染めて怒った。
「なーにが習ってません、だ!!!これはしっかりと授業でやった内容だ!お前たちが聞いていないだけだろうが!!くだらない事で呼び出すんじゃない!!そして水原、教師を呼び捨てにするな!!」
そこからは再び延々と神田の説教を聞かされ、俺たちが解放された時には2時間が経っていた。
「説教長過ぎだろ。仕方ねぇじゃん、知らないんだからよ。」
未だ不満が残り、ブツブツと文句を言う俺に
「俺たちが聞いてなかったって事だし、今回は俺たちが悪いよ。」
武宮がそんなことを言ってきた。
「はあ?なんだよ、真面目ちゃんかよ。つまんねぇ〜。」
苛立っていたこともあり俺はつい、武宮に当たってしまった。
「俺は真面目なんかじゃないよ。実際、先生の馬鹿発言にはイラっときたし、でもさ、ここでは教師の方が上なんだ。」
はぁ?なんだコイツ。
「じゃあなにか?お前はずっと馬鹿にされるつもりか?そっちの方がよっぽど馬鹿だろ。」
俺はもう神田のことなど忘れて情けないことをほざく武宮に怒りが移っていた。
「そんなことは言ってないじゃん。ここでは教師の方が上。なら俺達は正攻法でいかなきゃいけない。次のテストでは高得点を出してやろうよ。そんで神田をびっくりさせて、馬鹿って発言を撤回させてやろう。」
そう言った武宮の表情はとても凛々しく、カッコよく見えた。そして思った、
「俺、お前と友達になりてぇ。」
「え!?」
気づいた時にはもう、その言葉を零していた。
いや、何言ってんだ俺!!男にこんなこと言われても気色悪いだけだろ!!
「あ、わ、悪ぃ、武宮、今のは忘れてくれ。」
「え、ちょっと待って、俺ら友達じゃなかったの!?」
「え!?友達だったのか!?」
「一緒に勉強したじゃん!!」
「一緒に勉強したら友達なのか!?」
「そうだよ!!」
知らなかった。いや、違うな、絶対コイツがコミュ力高すぎるだけだろ。
そう思いながら、内心喜んでいる俺がいた。
「そっか、俺ら友達か。」
「おう、友達だ!!」