待ちに待った放課後。私はソワソワしながら、靴箱で翔が来るのを待った。
「もう、4組の担任、終礼長すぎだよ。」
既に10分は待っている。そろそろ来てもいい頃だと思うけど
「ごめん、遅くなった。」
「翔、いいよ、気にしてない。」
急いだのだろう。通学バッグが開いたままになっている。
「じゃ、行こうか。」
私は翔のバッグのチェックを閉め言った。
「おー」



「うわ、めっちゃ人いるじゃん。」
目当ての店には既に10人ほどが並んでいた。
「美味しいって評判だしね。」
「これに並ぶのか?」
翔はげんなりとした顔をして言う。
「うん、並ぶよ。約束でしょ。」
私は翔を引っ張り列に並んだ。
「てか、俺今しょっぱい系を食べたい気分なんだけど。・・・・・今からコンビニで買ってきていい?」
「はあ?」
なんだコイツ。馬鹿なの?あ、馬鹿だ。
「一緒にって約束したのもう忘れたの?それに、クレープにだってしょっぱい系はあるよ。おかずクレープなんて言うものがあるの、知らないの?」
「マジで!?何それ、面白そう!食ってみてぇ。早く俺らの番にならねぇかな。」
さっきまでとは打って変わって、翔はワクワクし始めた。調子のいいやつ。
その後も下らない会話を続けているうちに私達の番になった。私は無難にチョコいちごクレープを。
「翔は何にする?」
隣で真剣な顔をしてメニューを見る翔に問いかける。
「うーん、じゃぁ、ハバネロ納豆クレープで。」
「はぁ!?」
この沢山の種類の中からそれを選ぶ?普通。
「正気!?絶対不味いよ!!」
「だって、気になるじゃん。」
翔はなんともないように言う。いや、店員を顔みて、口元引きつってるから。てか、注文されてそんな顔するぐらいならメニューに入れなければいいのに。
ちょっとして、クレープは出来上がり、私達はそれを食べながら帰り道を歩いた。
「まっっっず!!」
「だから言ったのに。」
呆れた。翔は顔を顰めながらもハバネロ納豆クレープを食べ進める。そこで捨てると言う選択をしないもの翔のいい所だ。そういうところが好きなんだよなぁ。そんなことを考えながら歩いていると、翔がいきなり話しかけてきた。
「なあ、かなはさ、好きなやつっている?」
「!グッ、ゴホッゴホッ!!」
びっくりした。クレープを喉に詰まらせるところだった。
「な、何?いきなり。」
「いや、俺かなのそういう話聞いた事なかったし。気になって。」
アンタが私に聞くのかぁ。ホント、鈍感野郎。
「いるよ。」
「え?」
翔は驚いた表情を浮かべだ。なんだ、私が恋しているのがそんなに意外なのか。
「いる。誰よりもずっと、ずっと好きな人。」
「そ、そんなんだ。知らなかった。」
「まあ、言わなかったしね。」
戸惑い、視線をキョロキョロとさせる翔を見ていると少し笑えてくる。
「そいつと・・・・・・付き合いたいとか、思う?」
まあ、翔のその言葉で笑いはすぐに引っ込んだけど。なんと言うべきか、いや、わざわざ誤魔化す必要はないかな。
「思うよ。思うけど、無理。」
「なんで?」
翔は意味が分からないという表情を浮かべ私に問う。
「だって、その相手私に全然そんな感じじゃないもん。」
「まじか。」
「うん。」
アンタのことだよ。
「でも、そいつが誰よりも好きなんだろ?辛くないのか?」
流石は翔、馬鹿げたことを聞く。
「辛いに決まってんじゃん。でも、仕方がないことだから。」
そう、仕方がないんだ。
「あ〜あ、きっと私はこれから先、そこそこ好きな人と付き合って、結婚するんだろうなぁ。」
辛さを紛らわす為にふざけたようにそんなことを言ってみる。
「駄目だ!!」
「!?」
突然、翔が叫んだ。私の手をきつく握り
「そんなの駄目だ。」
今までに見た事のない真剣な表情で私に言う。
「ど、どうしたの?翔」
一体、何が翔の琴線に触れてしまったのか。
「お前が幸せになれないなら、そんな未来は駄目だ。お前を幸せに出来ない奴が、お前の隣にいちゃダメだ。」
「え?」
「そんな奴がお前の隣に立つくらいなら、俺が、お前の横にいたい。」
は、え?
「ちょ、ちょっと待って、一旦落ち着こ?」
私は翔に引きずり近くの公園で腰を下ろす。
「えっと、さっきの翔の話だと、まるで翔が私の事を好き?みたいな感じになっちゃってるんだけど」
「だってそうだもん。」
「へ!?」
翔はキョトンとした顔をして爆弾発言をしてきた。
「す、好き!?私が!?」
「うん。好き。だから、かながそこそこ好きなやつと結婚するとか言ったの聞いて、めちゃくちゃ腹立った。嫌だって思った。」
「翔」
「かな、俺、かなが好き。大好き。今は俺の事好きじゃなくても、絶対惚れさせるから。だから、俺と付き合って?」
不安そうな、それでも覚悟を決めた顔で翔は言う。そうか、翔は今、私には他に好きな人がいると思ってるんだ。そりゃ不安になるし、告白するのにもすごく勇気がいるよね。なら、私もその気持ちに答えなきゃ。
「ねえ、翔。私、さっき好きな人がいるって言ったじゃん?」
「っ、うん。それは分かってる。でも!」
「待って、私の話を聞いて?私が好きなのはずっとずっと翔だよ。」
「は?え?でも叶わないって。」
「うん、だって、翔は私のことなんとも思ってないと思ってたし。」
「はあ!?めちゃくちゃ好きだったじゃん!!ベタ惚れだったじゃん!!!」
「いや、知らないよ!全然そんな感じなかったじゃんか!」
翔が私に甘かった記憶ありませんけど!?
「ノート写させて貰いに行ったり、こうやって放課後に一緒にクレープ食いに行ったり!!」
「それが!?それは翔に友達がいないからかとばかり」
「いるわ!!友達くらいいるわ!!なんなら親友がいるわ!!今度お前に紹介してやるよ!!」
親友!?翔に?あれ、なんだか泣きたくなってきた。これが息子に友達が出来た時の母親の気持ちかぁ。
「って、そんなこと話したいんじゃねぇ!俺はかなが好き。で、かなも俺が好き。って事は、俺ら両思い?」
「そ、そうだね。」
改めて言われるとすごく恥ずかしいな。あ、翔も耳が赤くなってる。
「じゃあ、俺らは今日から恋人だ!!」
うわ、すごく嬉しそう。きっと私も同じ顔をしてるんだろうな。
「かな、俺絶対お前を幸せにする。」
「うん、私も、翔を幸せにする。」
こうして、私の10年の片想いは終わりを遂げ、私達は恋人へとなった。

「ところで翔、言うすごく迷ったんだけどやっぱり言うね。」
「え?何?」
「さっきのセリフ凄くかっこよかった。」
「ほ、ホント!?ありがとー」
「でも、ハバネロ納豆クレープを片手に持った上に納豆を口の端に付けてるせいで台無しだよ」

「あ」