朝の学校は騒がしい。クラスメイトの声が混ざり合う教室に私はそっと入り、席に着いた。1番後ろ窓際から2番目。どうせなら1番端になりたかった。
・・・・そろそろ来るな。
「かな!ノート!!!」
来た。
数学のであろう微妙に汚いノートを持って翔が私の席へと向かってきた。
「はい」
私は呆れたような顔を作り素っ気なくノートを渡す。本当はデロデロににやけそうだが、そんな顔を晒すわけにはいかない。
「ありがとうぅ。持つべきはかなだな。」
「はは、何それ。」
そんな事、簡単に言わないで欲しい。期待しそうになる。
私は歪みそうになる顔を何とか堪えて笑った。
と、その時だ。背中に強い衝撃が走った。
「おっはよー!かな!」
「いったぁ。美咲、いきなり抱きつくのはやめてっていつも言ってるじゃん。」
「ごめんごめん。」
木原美咲。高校に入ってたら出来た私の唯一の友達。多分、2年になっても同じクラスなのは先生が気を利かせてくれたんだと思う。美咲が居なければ未だ私の話し相手は翔だけだっただろう。同情もたまにはいいものだ。
「あ、そだ。かな。」
「何?」
「実はね、この間できたクレープ屋さんのクーポンがあるんだけど。」
そう言って、美咲は私に2枚のクーポン券を差し出して、小声で言った。
「武宮と行ってきな。」
「え!?」
美咲は私の恋を知っている唯一の人間で、いつもこうやって私の恋を応援してくれる。
「ん?なんの話してんだ?」
ノートを写し終わったのだろう。翔が私達の会話に入ってくる。
「あ、えっと、その」
「かながクレープ屋さんに行きたいけど一人で行くのが寂しいってさ。翔一緒に行ってやりなよ。」
テンパる私の代わりに美咲が翔に言う。なんて良い友達なんだ。
「え?まじ?行く!!」
「ほんと?じゃあ、今日の放課後に行こう。」
「おう!」
やった!これはデートってことでいいのかな。うん、そういうことにしておこう。

「楽しんできなよ」
「うん、美咲、本当にありがとう。」
感動する私に美咲は
「友達の為だからね!!」
と言いウィンクをして席へと戻って行った。その背中はとても頼もしく感じた。


「木原!!お前、課題今日までに提出だって再三にわたって言っただろうが!!!後で職員室に来い!!!」
「ご、ごめんなさぃぃぃ!!」


うん、気のせいだった。