私はこの世界が嫌いだ。それはきっと、この能力のせい。こんなものがなければ、私はこの世界を好きとは言わずとも嫌いにはならなかっただろう。
私、花咲かなは平々凡々の女子高生だ。勉強も運動も平均的。悪い訳では無いけど、特別できる訳でも無い。そんな私の他の人と違う所をあげるとするならば、1つはちょっとだけ片思い歴が長い事。そしてもう1つはー
「あ、運命だ。」
私の目の前を2人の男女が横切った。あの2人が別れることはきっとないだろうな。何故そう思うか、それは2人の薬指が赤い糸で繋がれているから。
そう、私には「運命の赤い糸」が見える。幼い頃からずっと。これを聞いて、皆は羨ましいとでも言うだろうか。でも、私はこの力を恨まなかったことは無い。
私が最も嫌いなもの、それこそが「運命」だ。
理由は2つ。1つは、私の母親が
「彼は運命の人なの!!」
だなんて言って、私とお父さんを捨てて男と出て行ったから。その時、母の隣には若い男がいて、母とその男は赤い糸で繋がって、互いが互いを心底愛している、そんな顔をしていた。私がこの能力を理解したのはその時だ。
2つ目はー
「よう!かな、今日も不機嫌そうな顔だな。」
「翔、これは元々この顔なの。私が気にしてるの知ってるよね?」
こいつは武宮翔。幼なじみで、私の10年来の想い人。
「かな〜。今日さ、コンビニの新作プリン食いに行かね?俺奢るからさ。」
「・・・・・何が目的?」
「あ〜・・・・俺今日数学で当たるんだよ。頼む!ノート写させてくれ!!」
翔は両手を合わせ私に勢いよく頭を下げた。
「はぁ、そんな事だろうと思った。いいけど、プリンじゃなくてハーゲンダッツね。」
「なっ、お前、ここぞとばかりに高いのを」
「嫌ならいいよ、ノートは諦めて」
そんなつもりはないくせに。私は翔がどんなに面倒事を持ち込んできても最終的には許し、手伝ってしまう。まあ、惚れた弱みというやつだ。
「いいよ!!奢るよ!!ハーゲンダッツだろうがなんだろうが!!」
「よろしい。」
私達はその後も雑談をしながら通学路を歩いた。

翔は、私が運命を嫌いな2つ目の理由だ。

私の大好きな翔の薬指のその先にーーー私はいない。