「私の叔母は現王妃です。クリスティーナ様のように白馬に乗った王子様に憧れて、現国王と結婚しました。しかし現実として王は側妃様だけ愛され、王妃はないがしろにされ続けました。もちろん白い結婚なので、子どもも生まれるわけがありません」

「アンジェリカ、君の伯母上が現王妃……」

 今初めて知ったという、殿下の顔。

 貴族関係など、少し調べれば分かると言うのに、なにも私のコトなど調べてはいなかったのだろう。

 自分のコトを思ってくれている可愛らしいネコとでも、殿下は私のことを見ていたからこそ、なにも調べなかった。

 殿下が私のことを好きというのも、高々底が知れている。

「それなのに王太后様にはそのことを責め立て、毎日が針の筵に座るような生活をしております。私はそんな王妃を領地療養させたく、殿下に近づきました」

「アンジェリカ、何を急に言い出すんだ。いや……だがそうだとしても……」

 そうだとしても?

 王弟殿下であるあなたは、兄である国王の一番近くで、王妃の現状を見てきたはず。

 それなのに、『そうだとしても』という発言が出て来るのか……。

 なにはどうすれば、王妃の身内を目の前にしてそんな言葉が出て来るのだろう。

 結局そう。殿下も、叔母様を苦しめる一人にしか、過ぎないということ。

 ほんの少しでも、期待した私が馬鹿だった。

「アレンさまは、わたしにとっては雲の上のお方です。お友達になれればと思っておりましたが、そこに恋愛感情は一切ありません」

「一切? アンジェリカ、君は俺のことが好きなんじゃあ……」

「いいえ、まったく。もし、私の行動が思わせぶりだったのでしたら謝罪します。でも私、ヒロインに……アレンさまの婚約者になる気はありません。だって、そうでしょう? ココには白馬に乗った王子様なんていませんもの」

 そう言いながら、私はクリスティーナへと手を差し伸べる。

 彼女にも伝わればいいと思った。

 叔母と同じ状況でこのまま婚約から結婚したとしても、私は幸せにはなれないと思うから。

 クリスティーナは私の顔を見上げ、じっと見つめ返す。

 きっと信じられない話ではあるし、そう簡単に捨てることも出いないものだということは分かる。

 だって叔母のように、なによりも愛した人だったのだから。

 しかしクリスティーナは一瞬目を伏せ眉間にシワを寄せた後、それでも私の手を取った。

 もう叔母のように、不幸になる人を見なくても済む。私は思わず、涙ぐみそうになった。