私にはどうしても叶えたい目的がある。

 その目的は記憶が戻ったところで、変わりはしない。

 ただ、この状況をどうするか。

 このまま全てを話してしまえば、殿下の気は私から離れてしまうかもしれない。

 そうなれば、もう他に願いを叶える手立てはない。

 ただこのまま、殿下の恋心を利用するのも気が引けてくる。

 そして何より心配なのは、今婚約破棄を告げられたクリスティーナだ。

 本来は、私がいなければ彼女は悪役になんてならずにすんだのに。

 今更、この前言われたばかりの言葉が突き刺さる。

 はぁ。どうしたものか。全部をめんどくさいと放り投げてしまえればいいのに。

 今の私にとっては、他人(ひと)の色恋なんて、知ったとこではない。

 なのにその中心に、よりによって自分がいるなんて。

「さぁ、行こう、アンジェリカ」

「殿下……。私の話を聞いていただけますか?」

「どうしたんだい、アンジェリカ。話なら、部屋でいくらでも聞くぞ」

 愛おしむような優しい笑み。先ほどのクリスティーナに向けていた顔とは全く違う。

 なぜこの微笑みを彼女に向けてあげないのだろう。

 全く関係ない私に嫉妬するほど、自分を愛してくれてるのに。

「いえ、殿下。ここでクリスティーナ様にも聞いていただきたいのです」

「そうか。そなたも、クリスティーナに言いたいこともあるだろう」

「あのぅ……ア・レ・ン・さ・ま、今から言うことや話すことは不敬罪になんてならないですよね?」

 上目遣いに、猫なで声。どちらも殿下の大好きなモノだ。殿下の攻略法を考えるうちに、私が身に付けたもの。

 殿下は知的で美しいクリスティーナ様のような人よりも、ややおバカで可愛らしい女の子の方が好きなのだ。

 とはいうものの、そんな贅沢なコトを言えるのは彼の身分の致すところ。

 そこに気づけていない時点で、なんとも残念な人だ。

「アンジェリカ、やっと名前で呼んでくれるんだな。もちろんだ、どんなことでも言うがいい」

「ほんとですかぁー? アンジェリカ、うれしいです」

 ええ、本当に。この言質があるとないかとでは、話が全く違ってきてしまうから。

「えっとぉ、ではまずぅ、婚約はお断りします~」

 にこやかに私が宣言すると、みんながあっけに取られたように固まった。

 それもそうだろう。今この瞬間まで、ここにいる私以外は私がヒロインだと疑ってもいなかったのだから。

 私は目を閉じ、もう一度目的を確認し、ここに来る数時間前のことを思い出した。