『拝啓 クリスティーナ様。風薫る季節となりましたがいかかお過ごしでしょうか。こちらはとても過ごしやすく……』

「アンジェリカ、お茶が入りましたよ」

 窓からさわやかな風が吹き、叔母と私の青い髪を揺らす。

 随分と艶やかになり、少しずつ元気を取り戻しつつある叔母は、並ぶと姉妹に間違われるほどだ。

 あれからクリスティーナ様のお父様である、現宰相とアレン殿下の口添えのおかげで、やっと領地療養が叶うことになった。

 クリスティーナ様は運命の人を見つけたらしく、隣国に嫁ぐことも決まった。

 私はその結婚式に呼ばれていて、今からとても楽しみにしている。

 アレン殿下には叔母の口利きの代わりに、婚約を申し込まれたものの、丁重にお断りしてある。

 クリスティーナ様のご友人の話だと、まだ殿下は私に未練があるらしい。

 今、彼の婚約者の席は空席のまま。

 どうやら社交界において、クリスティーナ様との婚約破棄の話の経緯が広まってしまったらしい。

 いくら優良物件といえど、さすがに嫌煙されてしまっているようだ。

「んー、やっぱり私、結婚は当分いいや」

「そんなこと言っていると、そのうちどこかのいい人に巡り合って、あなたも結婚するかもしれないでしょ」

「そうだけど、ま、その時は私がじっくり選ぶつもりかな」

 そう言って、私は意地悪な笑みを浮かべる。

「そうね、それがいいわ。どんな人か、じっくり選ばないとね」

 私たちは二人で顔を見合わせて、クスクス笑い合う。

 白馬に乗った王子様はいなくても、私たちはようやく平穏で幸せな日々を手に入れることができた。

 そう自分の手で掴み取って。