私は幼馴染の双子の兄の方が好きなんです



明日の休日、みーくんとデートすることになった。

すっごく、楽しみ。

早く、明日にならないかなぁ。


でもな......。

恋人になってから、みーくんとすれ違ってばかり。

明日のデートもうまく立ち回れる自信がないよ......。

きっと明日も立ち回りに失敗したら、みーくんと心の距離が開いてしまう。

やっぱり、あまり早く明日にならないでほしいかも。


......。

......。


この二つの葛藤が繰り返し、埒が明かない。



HRが終わると私はすぐさま隣のクラスへ行く。

まだ帰らないでいてくれたらいいけど。

HRが終わってドアからカバンを持った生徒があふれ出てくる中、お目当ての人物を探す。

......。

......。

あっ、いた。



弥生ちゃんを呼び止める。

「弥生ちゃん」

弥生ちゃんは振り向く。

「はーい」

「一緒に帰ろう」



弥生ちゃんから勇気を貰いたい。

きっと弥生ちゃんなら、私を後押ししてくれる気がした。


「おっけー。私日直だから日誌だけ職員室持って行かないとだめなのよ。校門で待ってて―」

「はーい」



私は校門で弥生ちゃんと合流して、地獄の坂道を下る。


「で、ねここは私の知らない間に磨手と付き合っていたと」

弥生ちゃんはニヤニヤしていった。



「そんな大きな声で言うと恥ずかしいよう」

私は周りに聞かれてないか挙動不審になる。



弥生ちゃんは、そんな私を横目にため息を吐く。

「恥ずかしいことなんてないじゃない。私に励まてもらいに来たんでしょ」

「そ、そうだけど。てかバレてるんだ」

「そりゃね。何年の付き合いだと思ってるのよ。まああんたたちほどじゃないけど」

「私に勇気をください」

私は両手を合わせて、頭を下げた。


「勇気、勇気ねぇ」

弥生ちゃんは私の言葉を反芻する。


「勇気をください、ね。すでに告白するという中々勇気のいること一人でやってるじゃない」

弥生ちゃんに言われた通り、告白するときは勇気が必要だった。

あれは人生最大の勇気だった気がする。



「たしかに」

「だから、ねここの足りない物は勇気じゃない。自信ね」

弥生ちゃんにそう指摘され、納得する。

そうだ、自信の方が適切な言葉だったかもしれない。


今の私は自信がない。


「自信をつけるにはどうすればいいのかな?」

「うーん。問題点を自分でもよくわかってないんじゃない? 曖昧なままにしているからいつまで経っても自信がないし不安なんじゃないかな」

「そういわれると、そうかも」

「あと、そもそも、今回のデートの理想どんな感じなの?」

デートの理想がどんな感じ?

私には意味が理解できなかった。


「理想?」

「ほら、磨手に喜んでもらって、キスしてほしいとかあるんじゃないの?」


ああ、なるほど。

今回のデートでどこまで関係を深めたいのかという目標を聞いてるのか。


「うーん。確かにそうなったら嬉しいけど、私としてはとりあえず、みーくんとの心の距離が開かないようにしたいかな。とりあえず、喜んでほしい」


弥生ちゃんは呆れた様子で肩をすくめる。


「すごく消極的ね」

だって、最近高望みしすぎたことは、ことごとく失敗に終わってるんだもん。


「どうすれば、みーくんに喜んでもらえるかなぁ」

「ねここ。まず、私よりもあんたが一番磨手のことをよく知ってるのよ」

「みーくんとは幼馴染だから、確かによく知ってるけれど」

「だから、どういう時喜んでいたとか、どういうことしたら喜ぶとかあんたが一番よく知ってるんだから」


幼馴染だからよく知ってると私も思ってた。

けれど、昨日、今日とみーくんの考えてることが分からなくなってしまった。

みーくんと付き合う前と後で、まるで別人のように思えてしまう。



「でも、付き合いだしてから、私みーくんのことがまったくわからなくなったの」


私がそう言うと、弥生ちゃんは「ああー」と納得した様子になる。


「そういうのあるらしいわね」

「えっ、そうなの?」

「私のいとこの話なんだけどね。いとこもねここと同じで、幼馴染の子と付き合ったんだけどさ。付き合った最初はお互い喧嘩ばかりしていたそうよ。醤油派かソース派かとか、そういう些細な違いが原因だったって聞いたわ。恋人になることを同じベクトルを向くことだとお互いが考えてて、一挙手一投足、少しでもそこから外れようものなら指摘し合ったらしい。けれど、日が経つにつれて、たとえ恋人と言えど違う人格の人間なんだと気づいたらしい。過去を振り返った時、そんなお互いの人格の違う部分に惹かれあったのに、何意味わからないことしてたんだろうって思ったらしいわ。ねここたちも、お互い思い通りに振舞ってくれないから行き違いをおこしてるんじゃない?」

「そういわれると、そんな気もする」

「実際に付き合ってからの二人を見てないからなんともいえないけど、もしそうなら、どちらかが先に一歩引いて相手の存在を受け入れてあげればいいんじゃないかなって思うわ」

「確かに、私もみーくんにこうあるべきって押し付けてたかも。もっと寛容になるべきだったんだ」


きっと、私は寛容になる心が不足していた。

分からないなら、分からないまままず受け入れてあげることも大切だった。



すると弥生ちゃんは鼻にかかる口調で皮肉を言う。

「本当は男が率先してそうするべきだと思うんだけどね」

「あはは」


そんなこんな話していると、地獄の坂道を下り終えて、紅葉並木に到達する。


「ねここが近づいてくれるだけでありがたいことなんだからね」

「そうなのかな? 私ストーカーみたいにベッタリだったから嫌がられてるかなって不安だったんだけど」

「少なくとも、磨手にとってはありがたかったはずよ」

「みーくんにとっては?」

「あいつ、私が小学校の時転校してくる前、一匹狼だったらしいじゃん」

「そんなこともあったね」


私は小学校の頃のみーくんを思い出していた。

乱暴で、クラスメイト全員を泣かすゲームをしていて遊んでいた。

だから、誰も近づこうとしなかった。



「一匹狼ってね、つらいんだよ」

弥生ちゃんが悲しそうな口調で話しだす。



「弥生ちゃん?」

私は悲しそうな弥生ちゃんを見てちょっと不安になる。


「ほら、私も問題児だったから」

弥生ちゃんは自分の事を自虐するように言った。

私はそれを否定する。

「私の知ってる弥生ちゃんはすごく優しい子だよ」



すると、弥生ちゃんはいきなり私を抱きしめた。

「や、弥生ちゃん!?」

弥生ちゃんの胸の中に顔を埋める。

いい匂い。

......。



「そんな私でいられたのは、ねここが太陽みたいな笑顔でずっとそばにいてくれたからよ」

「弥生ちゃん......」

「本当。だから私は転校してから人として生きることができたのよ。ねここがいてくれてよかった」

「私も、弥生ちゃんがいてくれてよかったよ」

「磨手もそうね。あいつと私、過去たどってきた道似てるから」

「あはは」

「ねここみたいに近づいてくれる存在がいなければ、今頃私も磨手も人を殺してたわ」

「そ、そんなことないよう」

「あら、忘れた?私、小学1年生にして校長血だるまにした女よ」

そういえば、転校してきたとき、弥生ちゃんはそんな風に噂されてたっけ。

実際、最初は乱暴で誰も寄せ付けなかった気がする。

私はそんな彼女が気になって、


「あはは」

「どう?自信出てきた?」

そう言われ、ふと自分の心に向き合うと、暖かい何かを感じる。

ああ、きっとこれは自信だ。

さっきまで冷え切って震えていた心が、温かい自信に満たされていく。


「うん。私、なんとか明日乗り越えられそうな気がする」

私は笑顔で、この喜びを伝えた。



けれども、弥生ちゃんは人差し指をチッチッチッと振り

「まだよ」

と言った。


え、まだ私に足りない物があるのだろうか。


「え?」

「内面だけ自信持っても、外面付いて来なきゃ意味ないでしょ」

「うーん、どういうこと?」

私がそう言うと、弥生ちゃんはある方角を指さす。

その方角には衣食住大体揃うデパートがある。


「とびっきり可愛い服着て、お化粧して、オシャレもしなくっちゃね!」

弥生ちゃんは、そう笑顔で言った。



この後、私たちはデパートに買い物することになった。

弥生ちゃんは私に似合うデートにぴったりな服を選んでプレゼントしてくれた。

弥生ちゃんがここまでしてくれたんだ。



明日は必ずデートを成功させたい!!