「それじゃあね」
「またね」
私はまーくんとロッカーで別れた。
途中でみーくんに会うかなって思ってたんだけど......。
会えなかった。
もう学校に来ているのだろうか。
私は上靴を履いて、そそくさと教室へ向かった。
ドアをくぐって、教室を隅々まで見渡すがみーくんらしき人は見当たらない。
まだ来てないのかな?
......。
まだかな......。
もうすぐHRはじまっちゃうよ。
みーくんの友達もまだいないようだ。
もしかすると、遅刻ギリギリで滑り込んでくるのかもしれない。
結局、HRが始まってもみーくんは現れることがなく、1限目、2限目とみーくんの席は誰にも座られることがなかった。
3限目。
みーくんは現れなかった。
休みなのかな。
どこか具合が悪いのかな。
心配になってくる。
4限目。
みーくんは現れない。
本当にどうしちゃったんだろう。
もう今来ても欠席扱いになっちゃうよ。
お昼。
みーくんと一緒にお弁当を食べる約束をしていた時間。
みーくんのリクエスト通り、おにぎりを全部具を変えてたくさん握ってきた。
何度もご飯を炊いて、正直食べきれないのが分かっていても、疑わずに握った。
それもこれも、みーくんが私の作ったお弁当を食べてくれると思ったから。
私は机の上に弁当箱を置いて、ずっと待ち続けた。
5分、10分と時間が経過していく。
「葵さん、お弁当食べないの?」
お昼休みが始まり20分経った頃、一行に食べない私を疑問に思ったクラスメイトが話かけてくる。
「うん、まだ」
「早く食べないと、もう時間ないよ」
「うん、そうだね」
私はひたすら待ち続ける。
クラスメイトもそのうち私に構わなくなって、教室の隅でうるさくしだす。
授業5分前を知らせる予鈴が鳴る。
結局、みーくんは来なかった。
5限目。
......。
6限目。
......。
......。
ガラガラガガン。
静まりかえった教室にドアを勢いよく開ける音が響く。
「遅れてすみませーん」
私はその声に思わず振り向く。
みーくん。
私はその姿を見たとき、安心と怒りが交互に膨れ上がった。
みーくんの姿をみることができた安心。
約束を破られた怒り。
でも、安心の方が勝った。
登校中に何かあったのかと思った。
無事そうでよかったよ。
「お前、今頃来たのかよ」
「やべえ、ヤンキー」
「女としっぽりやってたんか?」
さっきまで突っ伏して寝ていた男子たちが騒ぎだす。
すると、先生がごほんと喉を鳴らす。
「岸野、遅刻の連絡も入れず何してたんだ」
「さっき起きました」
みーくんのカバンの中からぬいぐるみが顔を出している。
可愛い。
「あれ、ゲーセンの景品だぞ」
「マジかよ。バレたら停学になんじゃね」
あのぬいぐるみ、ゲーセンの景品なんだ。
あれ、みーくん学校サボってゲーセン行ってたの?
「とりあえず後で職員室に来い」
「行かねーよ」
みーくんはそう呟いて席に座った。
授業が終わると、私はすぐにみーくんに話しかけた。
「みーくん、おはよう」
みーくんは私を無視した。
聞こえてないはずがない。
「遅刻するなんて珍しいね。私心配したよ」
みーくんは私を無視し続ける。
「どうして無視するのよー?」
「無視してるわけじゃない。疲れたんだ」
ゆっくり過ぎるほど、ゆっくりと登校して来て、とても疲れているようにはみえないんだけど......。
「さっきまで、友達とゲーセンにいたの?」
「おん」
「そーなんだ。楽しかった?」
「おん」
みーくんは面倒くさそうに答える。
私はみーくんのカバンからはみ出ているぬいぐるみと目が合う。
「それ取ってきたんだね」
私がそういうとみーくんは不機嫌な口調で言う。
「あのさ、疲れてるっていっただろ」
「うん......ごめん」
みーくんは、ちぇ、と舌打ちをする。
そんな態度をされると、どうしても抑えていた感情が溢れて、制御できなくなる。
一緒に食べてくれる約束をすっぽかされた悲しみ。
私はみーくんを問い詰める。
「ねえ、どうしてお昼ご飯一緒に食べてくれなかったの?」
「気分じゃなかった」
みーくんは悪びれる様子もない。
私はそんなみーくんに腹が立つ。
私は思いをぶつけてしまう。
「気分じゃないって。私、一生懸命作ったんだよ」
「お前のそういうところ重いんだよ」
みーくんも切れ気味に言った。
酷い。
それって、私が悪いのかな。
でも確かに朝一緒に学校に行く約束も、お弁当一緒に食べる約束も、私が無理やり押し付けてしまったのかもしれない。
そのせいで、学校に来るのが億劫になって遅刻してきたのかもしれない。
そう考えると、申し訳ないことしてしまった。
「ごめん......」
私は謝った。
付き合いだしてから、行き違いばっかりになってしまった気がする。
このまま続けると、付き合っている事実がいつか消滅してしまいそう。
それだけは避けたい。
でも、もう嫌われちゃったかな......。
こういう時って少し距離を置いた方がいいのかな......。
私が落ち込んでいると、みーくんが私の頭をポンと叩く。
「ねここ、明日デートするぞ」
みーくんがいきなりデートに誘ってきてくれた。
「えっ、ほんと!」
「ああ」
嬉しい。
みーくんから誘ってきてくれた。
私を嫌いになったなら、デートなんて誘わないだろう。
つまり、まだ私のことを好きでいてくれている証拠。
ああ、幸せ。
さっきまでのネガティブな気持ちを吹き飛んでしまった。
「じゃあ駅前で10時な」
「うん、楽しみにしてるね」

