私は幼馴染の双子の兄の方が好きなんです




―――また夢を見ている。


昔の夢だ。

前回の夢の続き。



私の前に幼いみーくんが正座で座らされている。

その隣にはみーくんのお母さんがいる。

私の頬っぺたにはガーゼがくっついていた。



「ごめんなさいね、ねここちゃん。痛かったでしょう」

「こんなやつに謝らなくていいんだよ」


みーくんは不貞腐れた様子。

この前日、みーくんはつけ回す私を叩いた。

そのことで、おうちでみっちり怒られたんだろう。



「こら磨手。謝りなさい。お父さんに謝らなかったっていうわよ」

「ちっ、わかったよ。悪かったな、ねここ」

みーくんは目をそらして、謝った。



「ちゃんとねここちゃんを見て謝りなさい」

みーくんのおかあさんはみーくんの髪の毛を掴んで私の方を見させる。

ギリッ。

みーくんは私を睨む。


その瞳の中で「俺は反省なんてしてないからな」と言っていた。



「いいよ、許してあげる」

私は笑顔で答えた。


みーくんは私がすんなり許すと思っていなかったのか、少し驚いた表情をしている。

みーくんと目が合う。

私は満面の笑顔を見せる。

みーくんの顔が赤くなっていく。

......。

みーくんはプイっと顔をそらす。





その後、お母さん同士の話が始まり、私とみーくんは庭にいた。

私は庭から小石を拾ってきて、縁側で積み上げて遊んでいた。

みーくんは地面を蹴って穴を掘っている。



私は石を三つ縦に積み上げることに成功する。

さて、次は四つ目だ。

私が四つ目の石を手に取ると、みーくんは声をかけてくる。



「そんな遊び、面白いか?」

「うん。面白いよ」

私はみーくんの方を向き笑顔で答えた。

またみーくんと目が合い、みーくんはまた目をそらした。


四つ目の石を積み上げる。

「よし、できた......あっ」

ガランガラッ。

手を離した瞬間崩れ去った。


私はすぐに一つ目の石を拾って、その上に二つ目の石を置く。


諦めずにトライアゲインする私に、みーくんは退屈そうに話しかける。



「なあ、なんでお前、昨日俺に殴られたのに笑顔でいるんだ?」

「なんでだろう」

「お前もわからないのかよ」

「うん」


暫し沈黙。

私はその間も、三つ目の石を二つ目の石の上に乗せようとしていた。



「笑顔って楽しい時や幸せな時になるもんだぞ」


「そうなんだ。じゃあ、みーくんは毎日楽しくなくて幸せじゃないから笑顔じゃないのかな」


「ああそうだ。こんな身体で生まれてきたこと、この世界を呪ってるよ」

そういったみーくんは身体が震えていた。

怒りだろうか。悲しみだろうか。

その当時の私はその意味を考えることはなかった。



「うーん、みーくんは女の子になりたかったのかな?」

「ちげえよ。お前には一生分かんねえことだよ」

「そっか。なんだかよくわからないけど、色々考えてるんだね」

「モブのお前とは違って、俺は運命を背負っている漢だからな」

「なんかカッコいいね」



私は笑顔で褒める。


みーくんと目が合ったけど、またそらされる。



私は石を持って、置く。

私はついに、四つ目の石を乗せることに成功した。



「とにかくだ、お前今日から笑顔禁止」

「やだよー」

「お前の笑顔、なんか気が狂うというか......不気味なんだよ」

「そんな、酷いよー」

「笑顔やめないと殴る」

「やだよー」


笑顔って素敵なことなのに。

どうしてやめないといけないんだろう?

むしろ、みんな笑顔になれば、戦争だって世の中からなくなるのにな。

私は思ったことを言う。



「みーくんも笑顔になってみればいいのに」

「なんだと。漢に笑顔は似合わない」

みーくんは不機嫌になった。



私は構わず諭そうとする。

「笑顔っていいよ。笑顔になるだけで楽しくなるんだよ。笑顔になるだけで嬉しいこと、幸せなことを運んできてくれるんだよ」

「なわけねえだろ。逆だ逆。楽しいから笑顔になるの。それに誰が幸せ運んでくるんだよ」

そういえば考えたこともなかった。

笑顔になったら、一体だれが幸せを運んできてくれるのか。

うーん。

.......。


「鳥さんとか?」



私がそう言うと、みーくんは馬鹿にするように肩をすくめた。

「お前、もしかして赤ちゃんもコウノトリが運んでくると思ってたりするか?」

「えっ、ちがうの!??」

「はぁ......」

「赤ちゃんを運んでくるコウノトリさんの他に、お金返せーってドアをドンドンする借金鳥さんというのもいるよね」

「とんでもない馬鹿だ」

「そんな、酷いよー」


みーくんと四度目、目が合う。

私は満面の笑みを見せる。

すると、みーくんは今度は目をそらさずに、顎に手を当て何か考える様子。

何か思いついたのか、すぐさま、私の側に寄ってくる。

ガシャッ。

私の頭をわしづかみにした。

「あいたたたた」


そして、みーくんは私の顔を覗き込む。



すると、みーくんは私に尋ねた。




「なあ、お前もこの世界にうんざりしてるのか?」


ガラララ。

荒涼の風が私の建てた石の塔を崩す。


「どういう意味なのかな?」

「俺みたいに、このつまらない世界や周りのつまらない人が嫌いか?」

「ううん、私はお母さんお父さんのこと大好きだし、学校では皆に意地悪されるけど、みーくんの側にいると色んなことが起こって楽しいよ。大変な時もあるけど」

「それって、現状に飽き飽きしてるってことじゃないのか?」

「違う。みーくんがいるから飽きないよ」

「だから俺をつけ回すのか?」

「うん」




「お前、たまらなく退屈に感じる時ないか?」

「そんな時ないよ。笑顔でいれば、嫌なこととかあっても、楽しくなるもん」

「それがお前が笑顔でいる理由か」

「うん......」




「俺がお前のそのきもい笑顔やめさせてやるよ。感謝しろ」

「きもいは、酷いよう」


目が覚めた。