私は幼馴染の双子の兄の方が好きなんです



私は消毒と絆創膏をしてもらうために保健室へ行った。

保健室の先生にはいじめに遭ってるのかとかいろいろ聞かれたけど、私は否定した。

保健室の先生は、私の言ったことを疑っているようだった。


まだ誰かが意図的に画鋲を私の靴に入れたと確信できない。

ロッカーからたまたま私の上靴が落ちて、掲示物に使う画鋲がたまたま入って、上靴を見つけた誰かが、私のロッカーに直してくれた可能性もある。

......。


ああ......。


自分で言ってもおいて、それがいじめよりも可能性が低いことだと今気づいた。

気づきたくないことに気づいてしまった。





教室に入ると、女子の視線が一気に刺さる。

それも一瞬、私が視線に気づくと目をそらす。


私は自分の机へ向かう。

机にカバンを置くと、教科書やノートをとりだし、机に入れる。

クシュシャ。

ビニール袋を踏んだ時のような音が机の中からした。


なんだろう?

机の中になにかあるようだ。

おそるおそる机に手を入れる。


やっぱりビニールのようなものが入っている。

一つじゃない。

二つ、三つ......



取り出すと、コンビニで売っている菓子パンの袋が十数入っていた。


どうして?

私、こんなに食べたっけ?

くすくすと笑う高い声が、教室の隅から聞こえてくる。

私の姿をみて嘲笑っている誰かがいる。



菓子パンはたまに食べるけど、こんなに食べた覚えはない。

よく風袋を見ると、好んで買って食べない種類の菓子パンも含まれていた。

もし食べても、私はゴミ箱にちゃんと捨てる。



これは、誰かがした悪戯なのだ。

誰がこんなことしたの。

そうして私はこんなことされないといけないの。



私は笑っている女子の一人を睨む。

すると、あちこちからした笑い声が一気に収まる。

あの子たちがやったの?



いや、まだ特定の人物を疑うのはよくない。

あの子たちがやったという証拠はないんだから。



踵がジワジワと痛む。



ゴミはゴミ箱に。

私がそうしていると、HRが始まり、1限目の現国が始まる。


今日から新しい単元。

クラスメイトによる段落ごとの音読大会が始まり、こういう日は出席番号とか日付とか関係なく、全員当てられることになっている。


順当に私の番が回ってきた。

私はページをめくり、次読むところに目をやる。

......。

あれっ?

......。

なんか、文章の流れがおかしい。

前のページは句読点で終わってるのに、次のページをめくると最初の一行目が「をしていた。」で前のページからの文続きになっている。


ページを多めに捲りすぎたのかな.....。


「葵さん、p123のあの日から読んでください」

現国の先生が早く読めと催促してくるように言った。



しかし、私は一行にそのページを開くことができない。

ページがなかった。

曲がったりして前のページと引っ付いてると思ったりもしたんだけど、そんなことはなく。

やっぱりそのページがなかったのだ。

教科書の印刷ミスとか?


「どうしましたか? 葵さん」

先生はいつまで経っても読み始めない私を怪しんでいる様子。


先生に本の不備を訴えようかと考え始めたとき、私は事の真相に気が付く。

本の根元の方、ハサミでは届かないような根元の方で奇麗にページごと切り取られた跡があった。

おそらく、誰かがカッターナイフで切り取ったのだろう。



酷い、どうしてこんなことするんだよ。


ページをめくっていくと、他にも色んなページが切り取られていた。

それも必ず作品の途中のページが切り抜かれている。

せめて目次とか著者の顔を切り抜いてくれたらよかったのに。

これじゃあもう使いものにならないよー。



教室のどこかからクスクスと笑い声が響いた。


私のせいで授業を遅らせるわけにはいかないので、私は教科書を忘れたことにした。

しっかり教科書を広げていたから、私おかしな子だ。

先生も呆れたのかなにも言わず、私の順番を飛ばしてくれ、無事授業を終えることができた。



休み時間を知らせるチャイムが鳴る。

私はすぐに教室を飛び出した。


あの場所にいたら、私に直接なにかされるかもしれない。

それが怖い。


こういう悪戯されるのは小学校の時にも多々あった。

だからまだこのくらいの仕打ちは落ち着いていられるけど、私が平気と分かればもっと内容もエスカレートしていくに違いない。


私はこういうことが起こると、いつも強い人の陰に隠れてきた。

みーくんの側、弥生ちゃんの側に私はいつもいた。

すると、私に手を出す人がいつの間にかいなくなるのだ。

みーくんや弥生ちゃんにはそれだけの安心感がある。


こんな風に人を利用するような事をして、今までそのことで突き放さないでいてくれたみーくんや弥生ちゃんには本当に感謝してもしきれない。

特に弥生ちゃんはいつも私の味方をしてくれる。



だから、弱い私は外から吹く風に流されることなく、私らしく居続けられる。



行先を決めず飛び出した私だが、隣のクラスへ向かうことにした。

弥生ちゃんのいるクラスへ。



「葵さん、待ちなさい」

背後から名前を呼ばれて振り返る。

そこには伊藤さんがいた。



伊藤さんはクラスの中心的な女の子の一人だ。

クラス委員長をしている。

弥生ちゃんほどじゃないけど、気が強い部類。

彼女は毒舌というか、発言の一言一言が胸に刺さる。

私がひそかに苦手としている女の子だ。



「ねえ、昨日真理子が見たんだけど、岸野磨雄くんと放課後遊んでたってホント?」


伊藤さんはどういうわけか昨日まーくんと遊んだことを聞いてきた。


「うん、そうだけど」

「付き合ってるの?」

どうしてそんなこと聞くんだろう。

私は素直に答える。

「ううん、付き合ってないよ」



私がそう言うと、伊藤さんは首を傾ける。

私、何かおかしいことを言ったかな?

伊藤さんは考えるそぶりをみせ、口を開く。



「付き合ってないのに、一緒に遊ぶってことあるの?」

「まーくんは幼馴染だから。昔からよく一緒に遊んでたよ」


私がそう言うと、伊藤さんは睨みつける。

怒らせてしまったのかな......。

私は不安になり、腕を組む。


「葵さんは、磨雄くんや磨手くんを狙ってたりするの?」

「そ、そんなんじゃないよ」


作り笑顔でそう答えた。

本当はみーくんの事が好きだけど、気迫に押されてとてもじゃないけど、言えなかった。

それに、誰が聞いてるかわからないこんなところで言えるわけがない。

私は腕を組みかえる。


「そうなんだ。あのさ、葵さん」

「どうしたの?」

「好きじゃないなら身を引いてもらえない?」


身を引くってどういう意味だろう。



「身を引くって?」

「磨雄くんや磨手くんと少し距離を取ってほしいってこと。あなたが幼馴染で二人と仲良しなのは分かってる。けれど、あの二人を狙ってる人もいるの。二人を好きでもないあなたが側にいると気を遣ってアプローチをかけれないのよ。これは磨雄くんや磨手くんのためでもあるんだよ」


もしかすると、伊藤さんはまーくんかみーくんのどちらかのことが好きなのかもしれない。

だから私に距離を取る様に言ってきたのだろう。


「そうだね」

「わかってくれたらいいの。このまま続けられると、私たちも本気出すから」


本気を出すって何をするんだろう?

あれ、もしかして私の上靴の中に画鋲を入れたり、机の中に菓子パンの袋を入れたり、現国の教科書を切ったりしたのは伊藤さんかな。



「もしかして、私の上靴に画鋲を入れたり、教科書を切り取ったのも伊藤さん?」


私がそう言うと、伊藤さんはポカーンと口を開いている。

あれ、違ったのかな?

あれは、予想外のことを言われたって顔だ。



「人聞きの悪いことを言わないで。私はそんなことしない」

「疑ってしまってごめんなさい」


人を根拠なく疑ってしまった。

これは怒られてもしかたない。

でも、伊藤さんは急に優しい口調になる。



「そんなことされてるの?」

「あ、いや、うん、気にしないで」

「それはお気の毒に。きっと磨手くんや磨雄くんを狙ってるのは私たちだけじゃないってことね」


伊藤さんは心配や同情を含む声色でそう言った。

きっと、私に悪戯をしているのは、伊藤さんやその周りの人間じゃない。

伊藤さんはやっていいことと、やってはいけないことをちゃんと理解してる人なんだと知った。



「もし二人から身を引いてくれたら、私たちが睨みを聞かせてあなたに対する仕打ちを辞めさせてあげるわ」

「うん......ありがとう」

「わかったらいいの」

そういうと伊藤さんは去っていった。



もう、みーくん、まーくん。

急に人気になるから大変なことになってるよう。


今日の悪戯の原因は、私が付き合ってるわけじゃないのに、みーくんやまーくんと仲良くしているからだった。