あの後、三人一緒に家を出たが、みーくんとは一言もしゃべることなく、校門を通る。
「それじゃあ」
「うん」
まーくんの靴箱は別の場所にあるので、昇降口で一旦わかれた。
通学路で、昨日のこと謝れなかった。
タイミングなんてたくさんあったのに、みーくんに話しかける勇気がわいてこなかった。
私はロッカーから靴を取り出し、上靴に足を通す。
すると鋭い痛みが踵に走る。
「痛っ」
急いで靴を脱いで、足の裏の覗き込むと、画鋲がかかとに刺さっていた。
踵にボタンが貼りついてるように見えるくらい、根元までしっかり刺さっている。
身体に何かが刺さるというのに慣れていないからか、刺殺するサスペンスドラマの見過ぎからか、血の気が引いていく。
少し立ち眩みをし、ふらつく。
軽い怪我なのに、身体が無意識に大げさな反応を示す。
誰かがグラっと揺れた私の背中を支える。
ガタイが良くて、壁にもたれるような安心感があった。
誰か知らないけど、ありがとう。
「おい、大丈夫か」
その正体は、みーくんだった。
側で靴を履いていて、私の異変に気付いたのだろう。
私が倒れそうになって、すかさず後ろから支えてくれたようだ。
「ううん、なんでもない。大したことないこと」
私がそう言うと、みーくんは手を放しても倒れないことを確認して、「あっそう」と言うような様子で先に行こうとする。
その後ろ姿をみて、私は今言わないとと思った。
「ちょっと待って」
「なんだよ」
みーくんは面倒くさそうに、振り返った。
早くしてくれと床をタンタンとリズムよく踏みつけている。
今は二人きりの空間だ。
謝るなら今しかない。
「昨日のこと」
私がそういうと、みーくんも私が何をいいたいのか理解したようだ。
みーくんは少し顔を傾け、床を踏むのをやめた。
「叩いてしまってごめん」
「別に気にするな。俺も今の今まで忘れてた」
きっと、忘れてたなんてことはない。
そして、みーくんは鼻で笑う笑みをする。
「磨雄やおかんが言うには、俺はなんでも決めつけるらしいからな」
「えっ」
「その上、一度決めつけたら、考えを変えることなんてできない」
みーくんが昔から周囲に言われ続けてたこと。
たびたび偏った考え方を主張したり、人を思いのままに動かそうとしてトラブルを起こしてきた。
今回、まーくんと私がお似合いと言ったのも、誰かと付き合うつもりがないと言ったのも、きっとみーくんの中で色々考えた結果だったのかもしれない。
そういえばあの時責任云々と言ってたけど、まーくんとのキスについては、あれは事故のようなもので。
てか、当時二人でなかったことにしたのに、なんでみーくんが知ってるんだよ。
思い出すと、ちょっと苛立ってきた。
「俺が気に食わなきゃこれからも叩けばいい。俺もそうしてきた。知ってるだろう?」
小学生の頃はいつもそうだった。
私も殴られたことある。
「うん......」
「きもい笑顔で我慢されるより、殴られる方がいい」
「別にきもくないもん」
「あそ。この話はこれで終わりだ」
そう言うと、みーくんは先に行ってしまった。
これで何とか仲直りできたのかな?
ふと、自分の心に向き合うと、朝のような重たい気分が少し晴れている。
これで関係を壊さずに済むという安堵。
話しかけてもいいんだという喜び。
もっと上手く付き合っていけば、好きになってもらえるかもという期待。
よく考えると、謝っていても謝っていなくても、根本的なことは何も変わらなかっただろう。
ただみーくんに気にするなと言われただけだ。
それだけで救われた気持ちになれた。
私の気持ちの変容は現金なものだった。
それにしても上靴の中に画鋲が入ってるなんて......。
この辺の掲示板ポスターの張替えの時にでも落ちたのだろうか。

