私は幼馴染の双子の兄の方が好きなんです



私は居心地が悪くなった教室を逃げるように飛び出した。

まだ6限目まで時間があるし、外の空気吸いに行こうかな。


......。


誰にも会わず、気分転換をしたい。



今から昇降口に行くと教室移動中の先生に出くわしてしまいそうだ。

チャイムがまだとはいえ、昇降口をうろつく怪しい生徒は声を掛けられるだろう。

それはメンドクサイ。



となると、昇降口を抜ける以外に、外の空気を吸う方法があるとすれば......。




私は階段を駆け上がり、その勢いで屋上の鉄のドアに触れる。

秋も終盤にさしかかり、風を遮る建造物が周囲にないので、春が明けるまで誰も屋上なんか好んで立ち寄らない。

まさに今の私にはおあつらえ向きの場所となっている。


人がいないことを期待して重たいドアを開く。


......。


凍えるような冷たい風があらゆる声をかき消す。

高いフェンスの向こうにはちっぽけな家が群れている。

私より背丈が何倍もある大きな家が、豆のように小さく見える。

私のネガティブな感情も、ここに来れば小さくなっていく。



「地獄の坂道はつらいけど、屋上からの景色は最高だよ」


笑顔を作り、誰に聞かせるでもない独り言を言う。

何かを褒めると、自分を肯定できるようになる。

心の中に自分の居場所を作ることができる。

小さい頃からの経験則だ。



「こんなところにいると風邪ひくぞ」

背後から突然の声に、思わず振り向く。



そこにいたのは......。


「みーくん」


タオルを肩に掛けたみーくん。

どうしてこんなに寒い屋上なんかにいるんだろう?



「どうしてここに?」

「ヒートアップした体を冷やしに来たんだよ」

みーくんは額から流れる滝のような汗をタオルで拭きとり、答えた。



「すごい試合だったもんね」


私がそういうと、ギリッと睨まれる。


「おい」

みーくんは不機嫌そうに言った。


しまった。

もっと言葉を選ぶべきだった......。

みーくんのチームは、まーくんのチームに負けたのだ。

「すごかった」というのは、ちょっと軽率な発言だったかもしれない。


私と同じで、今触れられたくない話題で、一人になるためにここに来たのかもしれない。


「ごめ......っ」

みーくんは私の顎をクイッと持ち上げる。

みーくんの顔が私の顔に迫り、目つきはより鋭くなっていく。

ほんと、ごめんなさい。



「お前、変だ。顔色悪いぞ」

みーくんの予想外の言葉に私は呆気にとられ、思考を失う。

......。


「保健室行くぞ」

みーくんは私の手を掴んで、引っ張る。


しかし、私が動かなかった。


「おい、保健室行きたくないのか?」


私は無意識にみーくんとは逆の力で踏ん張っている。


まだ、答えが出ていないから......。

みーくんと一緒に行けない......。


私はみーくんの手を振り払った。


「ごめん、私元気だよ。大丈夫だから。ありがとう」


私がそう言うと、みーくんはそれ以上何もしなかった。


「あっそ。勝手にしろ」

そう言うと、みーくんは呆れる様子で教室に戻っていった。

みーくんが私を心配してくれたのに......。

その優しさを無下にしてしまった。


「ごめんなさい」

私はみーくんがいた場所に向かって呟いた。



私は今、もう一人の私と闘っている。

みーくんともっと関わり合いたい私と、みーくんのために距離を置くべきだと考えてる私。

この二人の私が闘っている。


さっき、教室で言われたこと。

私がずっと逃げて、後回しにしてきた課題。

幼馴染としてずっとひっつき回すのは本当にいいことなのか。

今の関係を保ち続けるための、冷静な判断と言えるのだろうか。

結局、自信がない。

昨日まで信念だと思ってたものが頼りなくなる。



私の気持ちを優先するか、みーくんの気持ちを優先するか。

その決着がまだついていない。


今みーくんと一緒に行くと、いけない気がした。

少なくとも無意識レベルでそう思った。



とたんチャイムがなり、私は急いで教室に戻った。