「やだね」
断られてしまった。
意外というか、人一倍気遣いができて、みんなに優しく学校の人気者のあの河野浩介が、こういうことは一番断りそうにないと思ったのだが。
「私何かした?」
「いや、そういう意味じゃなくて」と河野浩介は、自販機にもたれかかって、缶コーヒーを開けた。
「僕が思うに、そういうのって自分で返した方がいいと思うんだ」
なるほど。これが学校の人気者か。
ただ優しいだけじゃなく、正しいこと、間違ってることをはっきり言えるんだ。だから、みんなから好かれるし、河野浩介を嫌ってる人は、学校の中で私しかいないんだ。
河野浩介が断った理由は何も間違っていない。頼らなかった青山碧や、高橋隆人も悪くない。そういうのを人任せにしようとした私が、一番間違っていたんだ。
「というわけで、僕は返せないけど、呼び出しの連絡とか、そういうのはできるから。和泉のためだし」
「うん……そうだね。ちょっと怖い気もするけど、頑張ってみる」
「えらいえらい!」
と言って、河野浩介が頭をなでてきた。私は慌てて河野浩介の手を払いのけた。
「よしよしするな!」
「だって和泉、可愛いんだもん」
「だもん」じゃない。私は知っている。
あれは、なでている手で、急に口元に寄せ付ける技だ。これで何度キスされたことか、されている人を見たことか。



