「匂いに慣れたらやめるよ」


私はこんな質問をしたことにひどく後悔した。


「もういいや、なんか疲れた」


「え、何それ」


「別に、大した意味はないよ」


「そうなんだ」そう言って、坂井海は頭の後ろをポリポリと掻いた。


「もし明日元気なら、時間欲しいんだけど……」


「時間? でも碧がいるし……」


そう私が言うと、青山碧が「何?」と振り返った。すると、坂井海は慌てて、私の口元を押さえて、小声で言った。


「……碧ちゃんには内緒で、無理かな?」


「……碧には内緒? なんで?」


「……バレるとあれだから」


「……まあ、碧が帰る時間次第かな。今日も泊っていくって言ってるし」


「……じゃあ、もし時間できたら連絡して」


私は「わかった」と答えて、自分の家に入った。


坂井海からの誘い。それも二人っきりで……。


普通はデートとか考えるんだろうけど、相手は坂井海だ。どうせまた変なことに付き合わされるに違いない。