やってきた電車に乗って、私は秋澤明人の言葉を思い出していた。


「小泉はそれでいい。そのままでいてほしい」


こんなにありのままを好きになってくれて、別れた後もそういう風に考えてくれる人がいただろうか。


きっと秋澤明人はまだ私のことが好きで、でも自分とどうこうなりたいとか考えてなくて。


そのままでいてほしい。そんな言葉を言える人がいるだろうか。


本当にそう思ってくれてるなら、もしかしたら私はこういう人と結婚して、上手くいくんじゃないかと思った。


変わらない私を、変わらないままの愛で受け止めてくれる人。


「あーあ、ひょっとして、私、とんでもなくいい人を振っちゃったのかな」


と母親ゆずりの癖が出て、周りを見回し、慌てて口をつぐんだ。


隣に座っていたサラリーマン風のおじさんが、「青春やねえ」とニヤニヤしながら言った。


しかし、私は違うと思った。


「私の中で、青春はとうに終わっています。青春を卒業したんです」


すると、サラリーマン風のおじさんは、「そ、そうかい……」と言って、立ち上がり、別の車両に移った。


異性を意識し始めていた時間は、もうとっくに過ぎている。理想も求めていない。


青春の終わりは、恋を経験した結果、理想を現実にできると確信した時なんだと思う。