常盤七葉は駅とは逆方向で、自転車に乗って帰って行った。


私は駅まで、秋澤明人と一緒に向かった。


「これで何とかなりそうだな」と秋澤明人は言った。


「でも、正直、俺も小泉には陸上部に入って欲しかったんだけどな」


「秋澤くんまで、あんなしつこい勧誘してこないよね?」


「あそこまではしないさ。ただ、一緒に走りたいなって、小泉のあの走りを見て、そう思ったんだよ」


それは純粋に嬉しかった。でも、陸上部にはやっぱり入りたくない。


「ねえ、秋澤くん」と、私は気になっていたことを聞いた。


「秋澤くんって、今付き合ってる子とかいるの?」


「いや、別にいないけど……小泉は?」


「私? 私もいないよ」


「じゃあさ、気になってる人とかはいないのか?」


気になってる人、と聞いて、私の頭に真っ先に浮かんだのは、当枝冬馬の顔だった。


「べ、別にいない……かな」


「そっか。それは残念だ」と言って、秋澤明人は苦笑いを浮かべた。


「俺はまだ、小泉のこと、気になってるんだけどな」


こういうことを恥ずかしげもなく言える秋澤明人に、私は胸がときめいた。


「……嬉しい、けど、うん……」


「……うん、わかってるよ。小泉はそれでいい。そのままでいてほしい」


そう言って、秋澤明人は反対のホームに歩いて行った。