そう、高橋隆人が言う通り、私は常盤七葉との勝負に負けたけど、とんでもないタイムを叩き出していたのだ。


常盤七葉が12.37秒、対する私は12.39秒だった。


このタイムは、全国も狙える、すごいタイムなのだという。


「まさか、自己記録を1秒も更新すると思わなかった」と常盤七葉は驚いていた。


「なぜお前は陸上をやらないんだ?」とも。


それに対して、私は「遊びは中学までにしておこうかなって思って」と、冗談で答えた。


それがいけなかった。


常盤七葉は急に、「奴隷のことは忘れる。代わりに陸上部に入って一緒に全国を目指してほしい」と頼んできたのだ。


もちろん、断った。しかし、常盤七葉は私の断りを断り、入れの一点張り。


そして、周りの部員も一緒になって、入れ入れの大合唱。そのしつこさったら、駅のホームまでわざわざ入場券を買って付いてくるほどだった。


今朝もそうだ。電車を降りると、陸上部員が朝練もせずに、私の周りを取り囲み、やれカバンを持ちましょうか、肩を揉みましょうか、今週の漫画雑誌を買ってきましょうか、媚びへつらってきて、うざかった。


そして、やっとそれに解放されたかと思うと、さっきの教室での待ち伏せだ。駅のホーム組との2班編成なのだろう。


ほんと、ここまでの統率力があるなら、チームプレーが活きるスポーツでもすればいいのにと思う。