「どうだろ……そりゃちょっとは速くなったけど、常盤さんには勝てない気がする……」


「まあ、十中八九無理だろうね」と重松茂は冷静に分析した。


「でも勝てないからって諦めるんじゃ、それこそ、今の秋澤くんと同じにならない?」


「それはそうだけど……」


「勝負自体はダメで元々だよ。でも、諦めないところは見せれると思う。勝てる人に勝てても、秋澤くんはすごいとは言ってくれるけど、すごいとは思わない人だよ」


確かにそうだ。秋澤明人はそういう人間だ。


元カノだからわかる。秋澤明人は言うことと思っていることがまるで違う。どんなに相手に対して思うことがあっても、それを口にして、相手が傷つくなら、絶対に思っていることは言わない。


それだから優しいだなんて言われて、彼女がいるくせに、他の女の子から話しかけられたり、相談されたりすると、受け答えしちゃうんだ。


私は知っている。それが付き合っている人を大事にすることには繋がらないってことを。


そして、私は知っている。秋澤明人という人間は、どんな小さな存在でも、どんな悪人でも、その人の良いところを見い出せる力を持っていることを。


だから、例え勝てなくていい。諦めずに、挑む姿勢を、ちゃんと見てくれる人だ。


そういう秋澤明人だから、私は好きになったんだ。