「位置について」の金井奏太の合図で、私はクラウチングスタートの構えに入る。


「よーい」の合図で、私は腰を上げる。


「どん!」の合図で、私は地面を思いっきり蹴る。


さっきよりも、前傾姿勢が取れていて、転ばないように、足が前へ、前へと出る。


「そのまま、前傾姿勢を保ちながら! かかとは付かない! 意識!」


そう金井奏太の(げき)が飛ぶ。


言われた通り、意識しながら走ると、風の中を突っ切っているような感覚になった。


さっきまではなかった感覚だ。


風と一体になるんじゃない。風を超えるんだ。


これが速く走るってことなんだ。


「どうだった?」


そう聞くと、金井奏太は「だいぶ速くなってるな」と言った。


「今のを忘れないように、もう一度走ってみようか」


「うん!」