ゆっくりではあったけど、途中階段があったけど、私は屋上まで秋澤明人を引っ張ってきた。
「まったく、強引だよな、小泉は」
と言って、秋澤明人はベンチに座った。
「強引なのはどっちよ。あんなのを取材するなんて……」
「そりゃまあ、めんどくさいとは思ってたよ。でもあれも広報の一環だし、『怪我どうしたの?』とか『インターハイ大丈夫?』とか、聞かれていちいち説明するのもめんどくさいよ。それに、うちの新聞部は大きな事件なんかもそうない中で、部を存続させるためには、面白い記事を書くしかないんだよ。そこは察してあげないとな」
「そのためだったら、秋澤くんは傷ついていいんだ?」
「だから傷ついてないって。割り切ってるつもりだよ。ああ、俺の陸上人生はここで終わりなんだなって。でももう悔いはないよ。十分やり切った」
「そんなこと今はどうでもいいでしょ!」私は半分怒っていた。あの新聞部に対しても、そして今こうやってニコニコしている秋澤明人に対しても。
「悲しんだっていいじゃない! 『なんでこんな時にこんな目に』って怒ればいいじゃない! どうして秋澤くんはいつもそうなの? 私と付き合ってるときだってそう。私が悪いことでもいつもニコニコ笑って謝ってさ。そういうの、正直……」
「正直? 何?」
「見てたくない」