そして、当枝塾は何事もなく過ぎていき、迎えた6日。中間テスト初日。
学校へ行くと、下駄箱には長田治が書いた小説の原稿が、束になって置いてあり、
教室に入ると、高橋隆人が春乃ちゃんから貸してもらったシェイクスピアの「ハムレット」をスマホで辞書を開きながら読んでいた。
「結構熱心だね」
と私は高橋隆人に声をかけた。
「ああ。結構難しくてよ。ホント、挫折しそうだ」
そう頭を抱えながら言う高橋隆人だったけど、目は真剣で、ああ、この人は本当に自分がやりたいことを見つけたんだなって思った。
「どこかわからないところある?」
「んー、やっぱり『生か死かそれが問題だ』ってところだな」
なるほど。「ハムレット」の名言でもある「To be or not to be,that is question」か。
「あれにはいろんな意味があるんだよ。次の文章を読むと、父を殺された復讐をするべきか、しないべきか、って意味になるけど、今まで通りの生き方をするべきか、それとも今までの生き方を変えるべきかって意味にもなるの。いろんな解釈ができるってわけ」
「へえ、それで『To be or not to be』かあ」
まあ、今の高橋隆人の場合、Toは1時間目に行われる英語のテストの勉強だと思う。
明らかにNot to beの方を選んじゃってはいるみたいだけど、目先の勉強と、将来にかかわる勉強の二つがある場合、果たしてどっちが大事なんだろう。
まあ、少なくとも今の私はTo be。それしかない。



