撮影が終わって、春乃ちゃんと高橋隆人と少し遅めのランチをして帰ることになった。
学校の近くにファミレスがあって、そこに入って、私は春乃ちゃんと隣同士、高橋隆人は目の前に座った。
そして、メニューを開いて、何にしようか決めている時に、高橋隆人がふと、「俺、俳優になろうかな」と言った。
私は内心、「はあ? なれるわけないじゃん!」と思ったけど、春乃ちゃんがすかさず、「いいですね!」と言ったから、言えなかった。
「きっとなれますよ! 高橋さんに向いてると思います!」
「そうか? 別に俺、ああいうの嫌いじゃないって思ってさ」
「嫌いじゃないどころかホント、向いてますよ! これからも演技続けてみたらどうですか?」
「そうだな。まあ、また機会があればよろしく頼むよ」
そんな二人の会話を聞いて、私はつくづく言わなくてよかったなと思った。
こういう他人の一言が、夢を諦めることにも繋がるんだろうなって。
そして、そんなことには気づかないまま、大人になってしまうんだろうなって。
高橋隆人は夢を見つけた。そして春乃ちゃんはその夢を応援している。
私の夢は? まだないけど、少なくとも誰かの夢を壊すようなことはしたくない。



