「文芸部の時もあれも?」
「いや、あれはその……」と長田治はもじもじしながら言った。
「……ライバルになりたい、って意味だったんだ」
「ライバル?」
「三島由紀夫が初めて太宰治に出会ったときに、言った言葉らしいんだけど……その、僕は小泉さんみたいなボーイミーツガールは書けないって思って……それなら別の形で、その……」
なんとなく言いたいことは伝わった。
私が書いたのは、ボーイミーツガール。男女の出会いから恋愛に発展する王道のラブストーリーだ。
でも、同じものを書いても敵わないと長田治は思ったのだろう。だから、私の文学を否定しながらも、どこか悔しさもあって、そこから別の文学で、長田治が思う文学で、私に勝とうとしていたんじゃないだろうか。
その宣戦布告、みたいなものだったんじゃないだろうか。



