「ないとは言えないんだよね」


と体育の授業中、母親ゆずりの癖が出て、サッカーのパス練習のペアになったメイちゃんこと、明千代子に「何がですか?」と聞かれた。


「いや、私に恨みを持ってる人の心当たり」


「小泉和泉さん……じゃなかった。コイちゃんに恨みを持っている人、ですか?」と、メイちゃんはサッカーボールを両手で持った。


「もしそんな奴がいたら、私が粉砕するので大丈夫ですよ」


ボールが可哀そうになるくらい、両側から力を込めてボールを掴むメイちゃん。さっきのパス練習では空振り10回、変な方向へのパスが23回あった。


「ありがとう。でも、私のことだから……」


「コイちゃん。あんまり人に頼らない生き方してますか?」


と、不意に聞かれて、私は「いや、それとは真逆」と咄嗟に返していた。


「そういうことですよ。頼ればいいんです。それがコイちゃんのいつもだし、それが最善策だと思いませんか?」