「いやいや、それが結構難しいんだよ」と昨夜、電話で重松茂は言っていた。


「わかっていても、その通りにならないんだよ」


でも、現に私は、一品ずつ確実に作れている。昨夜味をしみこませてあった唐揚げも、ミニハンバーグも、ベーコンでアスパラとエノキを巻いたものも。


ただ、重松茂直伝の卵焼きだけは、端っこを味見してみたけど、ちょっと違う。なるほど、これが難しいってことか。


「でも、お弁当なんて作って、どこか行くの?」


と重松茂に聞かれた時、私はちょっと言葉を濁して、


「親戚の子どもの運動会があるの」


と嘘をついた。重松茂には正直に言ってもよかったかもしれない。でも、一応元カレなわけだし、別の男にお弁当を作るなんて、デリカシーのないことは言えない。