「高校は楽しい?」
「はい、とっても楽しいですよ」
「そうか、そうか」
と言って、工場長はコーヒーを飲んだ。つられて私も一口、コーヒーを飲む。少し苦いけど、飲めないなんて言えない。
私はコーヒーの苦さを紛らわすために、会話を探した。
「あ、そういえば工場長の娘さんも、瀬花高校だったんですよね?」
「まあね。ただ、病気がちでほとんど通えなかったけどね」
いよいよコーヒーが苦い。ひょっとして私は地雷を踏んでしまったのだろうか。
慌てて他の話題を探す。事務室をキョロキョロ見回していると、工場長の机の上に、紺色のカーディガンを羽織った女の子の写真があった。
「あ、あの人が娘さんですか? 可愛いですね!」
「祭といってね。亡くなってからもう7年になるかな」



