「で、ネックレスってこれのことでしょ?」
私は箱に入ったネックレスを広田博に返した。
「ありがとう、和泉ちゃん! いやあ、実は今月、妹が初めてのデートだからって、どうしてお金が必要で……バイト代じゃ足りないから、仕方なくこれを売って妹のデート代に企てようかって思って……」
広田博がドケチな理由。それは、家が貧しいからだ。
広田博は、幼いころに父親を交通事故で亡くしている。母親は病気がち内職くらいしか満足に働けない。兄妹も広田博を含め、5人いて、家計は常に火の車。
そんな広田博はバスケ部の推薦で、学費免除で瀬花高校に入学した。
部活が終わると、夜、コンビニで内緒でアルバイトしている。朝は、新聞配達のアルバイト、休日は工場でアルバイトしている。
「そんなことだろうと思ったよ。宏子ちゃん? 博美ちゃん?」
「宏子だよお。ひろしくん、宏子に『付き合うのはまだ早い』って言ったんだけど、あの子、言い出したら聞かない子だから……」
「確かに宏子ちゃん、あんたよりもしっかりしてるもんね。そっか。とうとう彼氏できたんだね」
「そうなのお。父親代わりみたいなもんのひろしくんからするとね、なんか嬉しいような、寂しいような気がして、複雑なのよお」
「まあ、あんたの場合、お父さんってよりも、お母さんって感じだけどね」
「違いますう! ひろしくん、男の子ですう! 女の子が好きですう!」



