屋上のベンチに座って、10分ほど待っていると、ドアが開いて、巨体が姿を現した。


そのまま、ズカズカ私の元まで歩いてきて、それから彫りの深い目で周りをキョロキョロし、一言。


「……一人か?」


「そうだよ。他には誰もいない」


「そうか……」


と言うなり、広田博は、肩をすくめた。


「ああ、よかったあ! いやあ、誰かに見られてたらどうしようかって思ったよお」


といつもの間抜けた声でその場にへたり込んだ。


「ごめんね? ひろしくん、手紙に名前書いてなかったでしょ?」


「そうね。書いてなかった。だから結構探すの手間取ったよ。嫌な奴も、頼らなきゃいけなかったし……」


広田博は、見た目とは裏腹に、かなり乙女だ。


私よりも乙女で、心がとても小さい。心が狭いというより、小心者という言葉の方が似合う。


でも普段は、そのことを悟られないように、硬派のフリをしている、とても残念な男なのだ。


私はまんまとそれに騙されて、付き合った。それからすぐに広田博の本性を知って、初めはそのギャップに驚きはしたものの、何だかオネエと話しているような感覚になって、気もよく合った。


でも、結局広田博のことは友達としか思えなくなって、別れることになった。