私が大学2年生の頃、カフェで本を読んでいたら、

「お嬢様!」

突然、そう声をかけられた。

「えっと、誰…?」

声をかけてきた同世代と思われる男の子は、とても爽やかな雰囲気だったものの、見知らぬ同世代の男の子に声をかけられたら、ナンパだと思うのも無理はないだろう。

「前に一度お会いしたんですけど…覚えていらっしゃいませんか?」

その言葉で、やはりナンパだと確信した。

「前に会ったよね?」

というナンパの手口は、当時あまりに多かったから、私はさっさと席を立ち、店を出ると、駅まで走った。

そして、電車の中で本の続きを読もうとしたとき、本がないことに気付いた。

どうやら、カフェでナンパされたときに、うっかり忘れてきてしまったようだ。

「あーあ、ついてない…」

ため息をついて、窓の外をぼんやり見ていた。