大学時代の友人と酔った勢いで撮ったバカなプリクラを切り分けていたら突然謎の光に包まれて僕は知らない場所にいた。
 知らないおばさんが振り向きざま、木の器を床に落として悲鳴を上げる。床にこぼれたクリームシチューっぽいものは、何の肉を使っているのだろう、少し癖のあるにおいがした。
「あ、あんた! あんたぁ!!」
 彼女が呼んだのはおそらく旦那で、時間を置かずして禿頭のクマみたいな男が斧を持って外から入ってきた。
「お前なんの騒ぎだ――」
 そして僕と目が合う。
「貴様! 俺の家に何の用だ!」
「いえすみませんなんというか、気がついたらここにいました」
 こんなに信じてもらえそうにない事実があるかと思うが、逆に信じてもらえそうな嘘が思いついたら教えてほしい。そういう気持ちで、僕は本当のことを言った。
「嘘つけ。ハサミなんか持ちやがって」
「ああっ」
 思わず変な声が出た。たしかに僕はハサミを持っている。おさしみ蒟蒻のビニール袋とかを開けるときに使っている小さいキッチンバサミだった。これが、プリクラを切るのにちょうどいいと思ったのだ。
「ずいぶん小さいハサミだな。何がしたいのか知らねえが、そこから一歩でも動いてみろ、こいつで真っ二つにしてやるからな」
「す、すみません」
 男は夫人に縄を取りに行くよう命じ、僕はそれでぐるぐる巻きにされるんだなと思っていたら、実際にそのようになった。
 ランタンを持った男に引っ立てられ、僕は少し離れた家に連れて行かれた。外は真っ暗で、いくつかの民家があった。どの家も大した違いは無いように見えた。
 僕は村長だという男の元に連れて行かれた。
 男は僕から取り上げたキッチンバサミを髭もじゃの長老の前に置いた。
「どこのモンか知らねえがこいつ、こんなもの持って、女房を襲おうとしやがった」
「そうかあ」
 長老はうーん、と天井を見上げた。
「縛り首」
「そんなあっさり」
 ごく簡単に死刑を言い渡された僕は唸った。「僕は、奥さんを襲おうとしたわけじゃありません。プリクラを切ってただけです」
「ん、何か言い分があるんだ一応。聞くだけ聞こう。プリクラってなんですか」
「プリクラというのは、写真です。小さい写真。それを切っていたんです」
「待って待って。写真って何」
「写真とは、写真です」
「なんか緊張してるな」禿頭の男がぼそっと言った。
「違った、写真というのはですね」どう言えばこの人に伝わるんだろう。「人や風景なんかが描かれた、絵のようなものなんですけど」
「絵なの」
「厳密には違いますが、それが近いかなって感じです」
「なるほどね」
 村長は髭を撫でた。
「でなんでその絵を切る必要があったの」
「それは、ですね。機械から、こう、何枚かくっついた状態で出てくるので、一緒に映っている人にも渡したいってことになると……その、プリクラというのは何人かでするのが一般的なものなので……なので、人数分に切らないといけないわけです」
「そうなんだ。それで、なんで機械から絵が出てくるの?」
「ああ……」
 何をどう説明しろというのだろう。
「全然わからない。そんなものはない。この人は多分強盗だけど、訳の分からないことを言って我々を煙に撒こうとしている気がする。そういう人は危ないから縛り首にしましょう」
「違います。違います」
「違うんだったらちゃんとどういうわけか言ってごらんなさいよ」
「言ってます」
「全然わからないんだってば。どうせ嘘なんでしょう。どこもそうだと思うけど、うちの村も余裕が無いからね。こういうことしちゃう人は、殺さないといけない。ここで何の対処もしなかったら、あなたみたいな人がいっぱい来てしまうかもしれない」
「プリクラ切ろうとしたらいつの間にか知らない人の家に来てしまうような人がそう何人もいてたまるかよ!」
「だからそのプリクラっていうのがなんなのかわからないんだってば」
「グーグルで調べて! グーグルっていうのは検索エンジンンのことで検索エンジンっていうのは知りたい言葉を調べるといろいろ教えてくれるやつです!」
 村長はリモート会議中に電波が悪くなったみたいに固まっていたが最終的には何も理解できなかったようだった。縛り首になった僕は謎の光に包まれたかと思うと路上にいた。
 向かいから金髪の青年が歩いて来て、言った。
「君、どうして首に縄をつけているんだい?」
「ファッションだよ」と、僕は答えた。