湖のほとりに白いワンピースの女が立っていた。
 ご視聴ありがとうございました。と、ふかぶかと頭を下げる。
 最初女はわたしに話しかけているのかと思ったが、その場を離れても何もないところに向かって繰り返し頭を下げるのでわたしはぞっとする。

 ご視聴ありがとうございました。
 ご視聴ありがとうございました。
 ご視聴ありがとうございました。

 わたしはスマホを構えて女の動画を撮り始める。女にばれないように、後ろに回り込んで。そうしている間も、絶えず女は頭を下げ続ける。女の美しい髪が、その度に行ったり来たりする。湖は凪いでいる。彼女の奇妙な行動を除けば、絵画のような光景だと思ったかもしれない。

 ご視聴ありがとうございました。
 ご視聴ありがとうございました。
 ご視聴ありがとうございました。

『湖にやばい女の人いたww』というタイトルをつけ、わたしはその動画をアップロードする。
 レジャーシートを敷き、そこに座っておにぎりと漬物を食べながら、じっと再生回数を見る。

 ご視聴ありがとうございました。
 ご視聴ありがとうございました。
 ご視

 かれこれ1時間ほど画面を眺めていただろうか。『再生回数:1』の表示を確認して、わたしは顔を上げる。
 女の声は聞こえなくなっており、どこへ行ったか姿も消えている。
 そして動画を見る。
 白いワンピースの女などどこにも映っていない。それはもはやなにを映そうとしたのかもわからない、中途半端な余白のあるただの湖畔の映像だった。

「ご視聴ありがとうございました」

 そう呟いて、わたしは立ち上がる。