……その後を思い出すと、今度は一転して、消えてなくなりたいぐらいに恥ずかしくなる。
 衝動的に孝の家へ向かって、彼が帰って来るのを待って、それから──
 我ながらよくあんな真似ができたものだと思う。目を覚まし、状況を把握した時の恥ずかしさと言ったらなかった。
 孝も、朝になってからはさぞかし困っただろう。ギリギリまで起こさなかったのは、眠らせておきたいと思ったのも確かだろうが、きっと、どんな顔をしたらいいかわからなかったからだと思う。
 駅で別れるまでの間、孝はいろいろ気を遣ってくれたけど、妹も同然の相手とあんなことになったのは不本意だったに違いない。それを思うと、前よりもずっと強く、顔を合わせられない気分になる。
 そもそも、孝への気持ちを忘れるためにしたことの結果を、孝本人に頼って打ち消そうと考えたのもおかしなことだ。けれどあの時はそれしか思いつかなかった。あの悔しさや悲しさを紛らわせるには、一番好きな人に受け入れてもらうしかないと。
 孝は、すごく優しく扱ってくれた。触れる力が強い時もあったが、痛いとは思わなかった。前日同じことをされた時にはただ我慢していただけだったのに、孝が相手だと全然違って、それどころか自分から進んで何度も抱きつきさえした。
 おまけに、途中からはずっと泣き続けてしまって──どうしてか、それまで抑えていた気持ちの全部が一気にあふれてきた感じで、泣かずにはいられなかった。子供みたいに。
 だからこそ目覚めて我に返った時は、この上なく恥ずかしかった。今でもそうだ。
 ……本当に、次に会わなければいけない機会が来た時、どうしたらいいんだろう。もう自分から訪ねていく勇気はないけど、もし隣のおばさんに差し入れを頼まれた場合、当初は喜んで行っていた手前、断り続けるのは不自然だし……そもそも実家が隣同士なのだから、嫌でも顔を合わせなくてはいけない時が来るかも知れない。
 一連の出来事に関しては、実は舞にも打ち明けていない。正確には、久御坂と付き合い始めた以降のことは話さず、元彼女とよりを戻したみたいだから孝のことはあきらめる、と親友には言っている。
 その一点だけについても『ちゃんと確認したの』とか、『ほんとにあきらめられるの?』とか、当然ではあるがいろいろ言われたのだ。あきらめるために他の人と付き合うなんて話したら、舞は怒るに決まっていた。
 今思えば怒られるべきだったのだろうけど、その頃の紗綾ではたぶん素直に聞けはしなかったから、どちらにしても結果は変わらなかった、と思う。
 結局、自分がバカだったのだ。そんな自分の未熟さに、最悪の形で巻き込んでしまった孝には、心から申し訳なく思う。
 ほぼ真上まで昇った太陽は、じりじりと灼けつくような日差しを地上に浴びせている。暑くて目まいを感じるぐらいだったが、このままずっとここにいて、気を失ってしまいたい思いに駆られた。